千々石ミゲルの謎と、「宗教」と「信仰」
「天正遣欧少年使節」としてローマに渡ったメンバーの1人、千々石ミゲルの墓とされる場所から、人骨が発見され話題となっている。クラウドファンディングなどを通じて1000万円以上の資金調達に成功するなど、多くの支援や協力を仰ぎ、注目を集めていた調査プロジェクトだったが、2003年にミゲルの墓所とされる場所が見つかってから約20年、4度目の調査にて、ついに念願が叶った格好となった。
千々石ミゲル遺骨か特定へDNA鑑定 長崎・墓所推定地から発見
「天正遣欧少年使節」の一人、千々石ミゲルを埋葬したと推定される墓所(長崎県諫早市多良見町)の第4次調査を進めてきた民間グループ「千々石ミゲル墓所調査プロジェクト」は16日、墓から成人の全身人骨が見つかったと発表した。キリシタン信仰に関する副葬品は発見されなかった。出土品には歯も含まれており、今後、ミゲルの遺骨かどうかを特定するためDNA鑑定などを進める。(毎日新聞/2021.9.17)
高校の日本史などで学んだ人も多いかと思うが、「天正遣欧少年使節」とは、当時の九州キリシタン大名の勅命により、ローマに派遣された4人の少年を中心とした使節団である。中でもミゲルは、他の3人が後に司祭に叙階されたのに対し、帰国後にキリスト教を離れた人物として伝えられている。確かに、キリスト教に対する弾圧が激しくなり、拷問や迫害によって「転ぶ(キリスト教を棄てる)」者も少なくなかった時代ではあったが、ミゲルの棄教はそういったキリスト教弾圧が激しくなる以前であると言われ、いまだにそのはっきりとした理由はわかっていない。
この棄教の謎を明らかにする上での重要な道標ともなる今回の調査だが、だが、実は、これまでの発掘において、ミゲルの妻とされる人物の人骨が既に発見されており、副葬品からは、キリシタン遺物とされるガラス片やロザリオの部分なども出土されている。ミゲル本人からは、そういったキリスト教関連の副葬品は今のところ発見はされていないものの、今後の調査の進捗によっては、「宗教」は棄てたものの、「信仰」まで失っていたのかどうか、その真実に近づけるかもしれない。
今、世界は「宗教」で揺れている。イスラム教原理主義組織タリバンが政権を握った中東アフガニスタンでは厳格なイスラム法解釈とともに、思想の統制が始まっている。また、香港では反体制的な動きを禁じる国家安全維持法によって、信教の自由に影響が及んでいるという。哲学者パスカルが「神を感じるのは心情であって理性ではない。信仰とはそのようなものである」と残しているが、現在「宗教」によって作られた組織や制度によって人や心が分断され、その「信仰」の拠り所である神の存在すら危うくさせようとしている。400年近い時を経て、ミゲルの謎を解き明かす鍵が発見されたのは、こうした「宗教」による人の分断に対する、警鐘を鳴らしているのではないかと思わずにはいられない。
(textしづかまさのり)