舞台「疾走乙女」 W主演とはなんだったのか。
MsmileBOX渋谷にて上演された舞台「疾走乙女」を観劇してきました。
ネタバレを含む感想とともにW主演のお二人のうち、
特に■松本あぐり{鈴原優美}に焦点を当て考察的な話をしていきます。
あらためて本公演の「あらすじ」を掲載させていただきました。
本編を観劇した方はもちろん、まだ未見の方もこの舞台が「人見絹江」の物語であることを読み取れるかと思います。
ではW主演の「松本あぐり」はこの舞台においてどういう意味を持つキャラクタだったのか?
主演とは
wikipediaによると主演(しゅえん)は、映画・演劇などで、主要な役を演じること、またはその役者(代表役者)であり、「ダブル主演」などといわれる作品で、2人の主演がほぼ同列で描かれる作品もある。
としています。
脚本上、絹枝とあぐりが同列に掘り下げられ語られていたか?というと疑問です。しかしながら常に絹枝とともにあり時代にあらがう女性像として
「松本あぐり」は人見絹枝と同じ”時代を開く女性たちの先導者”として
同列の立ち位置にいる人物だったとみています。
もう少しあぐりと絹枝の関係性を掘り下げていきたいと思います。
絹枝の同級生達
あぐり同様、絹枝を支え続けた同級生として雪江と久恵がいます。
ライバルとして戦い続け怪我で引退、その後はコーチとして支えた雪江、
また絹枝たちを見守りつづけ、「久恵、いつも私の人生の転機にいてくれるね。」といわれるほどに 絹枝の心の支えになっていた久恵。
彼女たちもまた、絹枝に寄り添い共に時代を生きてきた級友たちであり
「絹枝を支えた」という点においては、あぐりも彼女たちもそう大きな差はなく絹枝にとって大切な友人たちだったといえる信頼関係を築いていました。
では雪江、久恵とあぐりを分けるものはなんであるか。
それはあぐりが絹枝にもたらした、とある力ではないでしょうか。
(余談ですが前場での雪江が涙ながらに気持ちを吐露する場面と
対決シーンは本舞台の大きな見せ場のひとつであり
この時点で筆者は涙をこらえるのに大変に苦労しました。)
「美しさ」というチカラ
舞台冒頭、絹江は「自分に自信がない」といい、化け物女と呼ばれていたことについても「慣れているから」と反論をあきらめていました。
走ることについてもそれほど前向きだったとは思えません。
そんな彼女が終盤では「私のことはいくら罵っても構わないが、後続の選手や女子陸上協会には指一本触れさせない!」と力強く反論するに至り、最後にメダルを勝ち取るほどに走ることに命を燃やすようになっています。
その成長にはライバルから託されたもの、講師として後進の育成によって得た責任感といったものもありますが、その”他者から託されたもの”に
圧し潰されず原動力とし続けられたのは絹枝が自分に自信をもてた、
という点が大きかったのだろうと感じています。
では、その絹枝が得た自信はどこからくるか。
そこに、あぐりがもたらした「美容」が作用しているのではないか。
筆者はそう見ています。
もともと、あぐりは「自信を持たせるための美容」を学びたいと
山野千枝子に弟子入りしています。また山野千恵子は
「美は恐怖も偏見も制圧できるわ!」と言っています。
走ることで男性よりも優れていた絹枝は時代の異端児として
”化け物”と恐怖され、”女が肌を見せて走るなんて”という偏見を持たれていました。
走ることで注目を集める絹枝が学生時代以降、そのままの姿であれば
同様にそうした恐怖や偏見の目にさらされていただろうことは想像に難くありません。
それでも絹枝が走ることに自信を持ち続けられたのは、あぐりが絹枝に美をもたらし、恐怖も偏見も制圧し、自分に自信をもってもらう一助になっていたのではないでしょうか。
また走ること以外は頓着がなく髪もぼさぼさだったという絹枝の髪を整え、
多くの人に興味を持ってもらう外見となったことという点も重要です。
この時代において女性がオリンピックに挑戦するという話題性だけでなく、
時代を切り開く女性として注目をあつめその中でメダルを勝ち取ることにより、絹枝は多くの女性たちに勇気と感動を届けたのでしょう。
外見的な美しさから興味を持った観衆が、たとえ最後は泥臭くなったとしても、改めてその内面に美しさを見たというのは、舞台終盤あぐりの
「現実は厳しい、でも厳しさに挑むあなたはとても美しい」というセリフに集約されているのではないかと思います。
人見絹江と並び立つ先導者
こうして絹枝はメダルを取り多くの女性たちに希望を与えました。
一方あぐりもまた、美容師として女性たちに美を提供することで希望を与えています。女性が外で働くという考え自体がなかった当時に彼女もまた時代の偏見と闘っていたのです。
舞台のラストシーン。絹枝とあぐりは「さぁ行こう」と客席に背を向けて終わります。
きっと当時の人々も先導者としての絹枝とあぐりの背中をこうして見ていたのかもしれません。
固定観念や偏見と闘い時代を切り開いた絹枝とあぐり。
人々の希望となったこの二人を同格としW主演としたことには先人への敬意の念が詰まっているのでしょう。
あらためてこちらの舞台、とても楽しく観劇できました。
ここで触れなかった脇を固める演者の皆さんも素晴らしい演技をされていました。
舞台関係者の皆様、いいお芝居を本当にありがとうございました。
ちなみに史実では24歳という若さで早逝した人見絹江に対し、
あぐりのモデルである吉行あぐりは107歳!まで長生きされています。
吉行あぐりさんが亡くなったのが2015年とのことですので
時代の変化を長く見守り続けたことがうかがえます。
こうした絹江とあぐりの対比もまた作品に魅力を生んでいるのではないかと思います。
人見絹江さん、吉行あぐりさんともにWikipedia等で実際の人生を
観劇後に見てみると一層物語が楽しく思い出されますのでお勧めです。
吉行あぐりさんおすすめ記事
①https://www.yumephoto.com/ym/voice/voice08.html
②https://www2.nhk.or.jp/archives/jinbutsu/detail.cgi?das_id=D0009250446_00000
人見絹江さんおすすめ記事
①https://news.yahoo.co.jp/articles/bc203f80930834cf35e61b4be7daceca2a897415
②https://bushoojapan.com/jphistory/kingendai/2021/07/21/81637
最後に
舞台「疾走乙女」は12/5をもって閉幕していますが、このご時勢、ありがたいことに配信が入っており12/19まで視聴可能です。
よしなに
https://twitcasting.tv/msmile_info/shopcart/119537?s=09