「第9回やっとな会」より『博奕十王』
前記事に続き、「やっとな会」の公演レポート、もとい覚え書。「博奕十王(ばくちじゅうおう)」についてです。この作品を見るのは初めて。ついでに博打ではなく博奕という字を見るのも初めてです。ジャンルとしては「鬼狂言」の中の「閻魔(えんま)もの」に分類されるそうです。大勢出てきて面白かった! 主人公の博奕打を深田博治さん、相手役の閻魔大王を
お話の流れは、まるでコント。閻魔様を筆頭に、キンキラキンの衣装をつけた鬼たちが登場。手に手に、何やらどう猛な武器を持っています。
閻魔さま「最近、巷では極楽浄土に行こうという宗教が流行っていて、地獄に来る人が少ない。六道の辻に出張って、くる者を責め落とせ」と、鬼たちに命じ、六道の辻(地獄や餓鬼道、人間界などへの分岐点)に出張所を作ります。金や銀の札、大事な鏡まで飾って、かなり本格的。
そこに、ポーチみたいなものをぶら下げた博奕打ちが「俺はかくれもない博奕上手」と名乗りつつ、登場。早速、鬼に捕まって、閻魔様の元にひったてられます。閻魔様が鏡に博奕打ちを映すと・・・。
「お前は生きているときに他人の家や着物をとって、あまつさえ盗みもしたな! 地獄行きじゃー!」
それに対して博奕打ち、「誰でもひまつぶしや正月には誰でも博奕はするもんだ」と、何となく話題をすり替えます。博奕が悪いんじゃなくて、あんたが悪い、と言われてるんですよね。
しかし、閻魔様はあっさりとこの口車に乗り「博奕ってそんなに面白いのか?」と興味津々。博奕打ちはニヤリ。これで地獄落ちを免れるかもしれないし、何より大好きな博奕ができる!
そこでポーチから巨大サイコロ(15cm角くらいに見えました)を取り出し、「1から6の目のうち、どれが出るかを当てるだけだ。さあ、何をかける?」
閻魔さま、着物やら持ち物やら、大事な鏡をかけながら、なぜか「1」への1点掛け。部下の鬼たちもじゃんじゃんかけ始めて、最終的には博奕打ちが閻魔様たちを身ぐるみはがした上に極楽に行く権利まで獲得。鬼たちに得物を持たせ、意気揚々と出発する、閻魔様+鬼たちはしょんぼり、というあっけらかんとしたお話です。
目は6つあるのに1つにかけるというだけで不利だろう、という基本的なツッコミはなし。初めての博奕にのめり込んじゃう、ピュアでかわいい閻魔さまに対して、博奕打ちは飄々と。2人のやりとりがテンポよく、意外とさらりとした印象の狂言でした。
深田さん、博奕打ちにしてはギラギラしたところがなく、こういう人が意外に騙し上手なんだよな、と思いながら見ていました。萬斎さんの閻魔様は軽妙。常に1に賭けるところとか、部下にも「1」を強いる時の表情とか、徐々に博奕に夢中になっていく感じがアップテンポで表現されていて、だいたいの先行きはわかりつつ、ワクワクしてしまいました。
萬斎さんと深田さんのペアって、身長のバランスがいいだけでなく、顔立ち、雰囲気(シャープな萬斎さんとおおらかな深田さん)も好相性な気がして、見ていてしっくりくるんです。
この公演には楽しいおまけがありました。1つは、プログラムに挟まっている博奕投票権。サイコロを6回転がすので、その出目を当てれば深田さんからのお土産が! というもの。これには座席と名前を書くスペースがあって、コロナ対策のために席を把握したい、という思惑があったそうです。そんな風に、エンタメ性を持たせながら観客の安全を確保するって、すごく素敵なアイディアだなと思いました。
残念ながら外れちゃったけど・・・(結局、1は一度も出なかったのに、1を入れてしまいました。どうして1が出ないんだろう? 仕掛けが知りたい)。
もう1つのおまけは、観客全員に、血の池地獄の入浴剤がプレゼントされたこと。深田さんが帰省された際にお求めになったそうです。作品にちなんでいるし、ユニークですごくかわいい! こういうお気遣いもうれしいなあと、感動しました。やっとな会、東京公演があればぜひまた行きたいし、大分でも見てみたいな。
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