見出し画像

釣狐のこと

2024年10月19日、狂言ござるの座70回公演で
野村萬斎さんの釣狐を見ました。
狂言の上演時間は短くて10分ほど、だいたいが25分くらいで
長いものでも40分ほど。
その中にあって釣狐は70分の超大作です。
メリハリあるストーリー、人間に化けた狐を演じる複雑さ、
セリフもどことなく高雅で奥ゆかしい。
なんとも魅力的な作品なのです。

萬斎さんの師父、万作さんの釣狐も、
ご子息、裕基さんの釣狐も拝見しましたが
昨日の萬斎さんの釣狐は、私が言うのも烏滸がましいけれど
「円熟」という言葉がぴったり。
キレよく、テンポよく、面白さと切なさがあいまってすばらしかったです。

プログラムに「語り」がのっていたので自分なりに、現代語訳してみました。
白蔵主に化けた狐が、猟師に「狐を釣るのをやめてください」と言いにきて
釣ってはいけない理由を語るところです。
覚書として、載せてみます。間違っていると思うけど・・・。

釣狐の語り
 
そもそも狐とは、神でございます。
インドで「やしおの宮」、中国で「きさらぎの宮」、
日本で稲荷五社の大明神というのはみんな狐のことです。
 
ここに「玉藻(たまも)の前」という女御(天皇の妻)がいらっしゃいます。
彼女は容色が優れていて、どこから見ても裏表なく美しい。
玉には裏表がないことから玉藻の前と呼ばれるようになりました。
 
また、「化生(けしょう/化け物)の前」とも呼ばれる理由は
一年前に宮中(きゅうちゅう)で歌合わせの会があり、演奏を聞いているときに
台風がきて、宮中の灯りがすべて消えました。
そのとき、玉藻の前が体から金色の光を出して玉殿(ぎょくでん/宮殿)を照らしたのです。
帝はそれをご覧になって「玉藻の前は人間ではなく、化け物だ」というので
化生の前と呼ばれるようになりました。
 
その後しばらくして、帝が病気になったので安部泰成(安倍晴明の子孫)がきて、
「一徳 六害 二義 三生 八難はろくがい」と呪文を唱えて占ったところでは
「これはみんな玉藻の前の仕業です」という。どうしたらいいかと聞くと
「玉藻の前はもともと狐ですが、すでに中国では
幽王の后である褒姒(ほうじ)と偽って七代もの帝を殺しています。
今また日本に渡ってきて、天皇の命を取ろうとしています。
これは一大事ですからご祈祷(きとう)をしなければなりません」といって
尊い僧たちを呼んでいろいろご祈祷をしましたが、効果はありませんでした。
 
そこで祭壇を作って、薬師の法をしようとしたとき
これは内裏にいられないと、玉藻の前は下野国那須野の原に落ちていきました。
しかし、国中に知れ渡ったものなので、そのままにしておくわけにはいきません。
犬は狐と顔が似ているので「犬追うもの」をして退治しようということになり、
三浦の介、上総の介の二人にそれを申しつけました。
二人は承知して家来や若者を引き連れて那須野の原について、
百日間、犬追うものをしたそうです。
百日分の犬を射ったところで、十メートルもある狐が一匹出てきたので
一の矢は三浦の介、二の矢は上総の介が射って
それ、やっつけろと飛び出して、剣を抜いてやつを殺し
その狐を天皇に捧げましたら、天皇の病気はすぐに治りました。
国が治まり、太平の御代になったのです。
 
しかし狐の恨みは残り、大きな石となってたくさんの人を殺しました。
地を走る獣、空を飛ぶ鳥までも落ちるほどです。
こうした殺生をする石なので「殺生石(せっしょうせき)」と名付けられました。
そこに玄翁(げんのう)という僧が現れて、その石に向かって大声で言います。
「汝(なんじ)はそもそも殺生石で、霊性のある石だ。
どこから来て、どこに行くのか」と。
そして柱杖(しゅじょう)で石を三回打ちました。
打たれてこの石が割れてからもずっと、狐の執念は残り、人を殺すそうです。
こういう執念が恐ろしい動物ですから、
今日からは狐釣りをぴたりとやめて欲しいと思います。

私が理解したところでは、こんな感じ。
釣狐、とても好きな作品です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?