#11 ひつじへ、ただいま
「それにしてもお久しぶりね。あの頃と全く変わってないじゃない。少し変化をもとめたりしないの?」
「変化とは?」
「もう少し毛が汚れているとか、目元にしわができたとか。あなたまるで変わってないわ」
「それは申し訳ないです」
彼女は笑った。ただ、かつてのようになんでも腹を抱えて笑うようなことはしない。それは十分に精神が成熟しているが、姿は当時のままでいるふしぎな状態だった。そのためか、ふたりはじっと見つめあい、お互いにそれなりの時間を過ごしてきたことをたしかめあった。
「うれしいわ」
「ええ。わたしもです。ずっと心配してました」
彼女は目を伏せて両手を後ろに回した。床につま先をこすりつけるところを眺めながら、黙りこくる。
「でも、今まで何を?」
「大変だったわ。スリルに憧れた少年に、隕石の落ちた街。白い夜。全部が一筋縄ではいかなかったの」
「でも、まだものがたりを?」
「そうすることが、わたしの願いだから」
そう言って、彼女はひつじに近寄りながら肩がけのポシェットをゆっくりとおろす。床はき色紙とはならず、コツコツとかわいらしい音をたてた。
「これ、ものがたり」
彼女の言葉に頷き、ひつじは丁重に受け取る。
「続けていたのですね」
「まあ、さみしいからね。出会えないことは」
彼女はひつじの目を見つめ、ひつじはそれにこたえる。
「ただいま」と彼女が一言もらすと「おかえりなさい」とひつじはこたえた。
ご清覧ありがとうございました。
こちらは前回のお話です。
ひつじとものがたりのお話はこちらにまとめてあります。