華胥之夢
そこでは甘く華々しい香りは遠く、そこには青さがあるばかり。やってきたばかりの彼女は、はじめからうんざりしていました。
どうにかしようと摘んできた花を水に浮かべても、においばかりはどうにもなりません。
「ねえパパ、どうしたらいいの?わたしもう都会に帰りたい」
「そうくさくさしないで。かわいい顔がだいなしになるよ」
「ごまかさないで」
彼女はお父さんに怒鳴り、部屋に閉じこもつてしまいました。布団や服に残るかすかな香り。彼女を癒せるものは、もうそれだけ。
ふてくされて眠ります。夢うつつ、クーラーの肌寒さを感じながらも、かすかに感じるあたたかい風。つれられて、青さが窓から入りこみます。
彼女は夢をみます。森の中、冷たい水に鳥の声。命が腐り、生まれ、循環していく。ここは映画か絵の中か、ずっといれたらどれだけいいことか。
目を覚ましたとき、部屋の窓が空いていることに気がつきました。気に入らなかったものが妙にいとしくて、夕暮れの空は水彩画のよう。
それから彼女は文句をやめてしまいます。ときどき空を見上げ、林を眺めて目を細め、いっぱいに息を吸込みます。
早く家に帰れた日には、クーラーをかけ、窓を開けて昼寝をしました。あのうつくしい場所へふたたび訪れるために。
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