アンティークたれ
「風船ちょうだい」
「ゴム製がいい?それとも起毛?」
「起毛!」
ロボットは関節を鳴らし、肘を伸ばします。彼女は耳を塞いで叫びました。しかし叫びが届くことはなく、ロボットはギリギリと音を立てながら腕を伸ばしきりました。
「もう、いらない!」
彼女は怒りながらも立ち去っていきました。しかし、ロボットには理由がわかりません。
「お代をお返ししますので」
足の関節を動かそうとしても、ろくに動きはしなかった。何度も繰り返されたことだった。しかし、ロボットにはどうしようもない。生産も販売もされていない型落ち品。交換パーツはあるものの、オーナーは手入れに予算を割くつもりはなく、要望は聞き遂げられなかった。
自らがアンティーク好きなオーナーに引き取られたことも知らず、ただ与えられた役割をこなす。
「風船、販売しています。ゴム製、起毛、どちらも取り揃えております」
ロボットは事情も語れず、少しずつ硬くなっていく体にも気付けずに立ち尽くし続ける。
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