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あてのない約束

「次は、あっちの海行き。あっちの海行きでございます」

気兼ねない声でアナウンスが入ると、グッと体が左に寄せられる。なだらかな曲がり角をあえてハンドルをキリキリと回しながら進んでいた。

自分以外は酔ってしまっても構わないという身勝手さが伺えたが、ハンドルを任せてしまったこちらが悪いのだ。足がつかまるとはしゃいでしまったのが運の尽き、先月もやられた手にまんまとかかっている。

どうやったのか、あえて壊れたような音のなるスピーカーがピカピカに磨かれたセダンに載っている。趣味はよかった。窓から入り込んでくるほのかな潮風に気分は上がり、冷たい外気と暖房が贅沢な気分にさせてくれる。

「それで、平地をぶらぶらしてから行きたい?それとも、このまま釣り場の近くに停めてほしい?」
「あんたは毎回、とことんやるやつだな。釣り場に頼むよ」
「あい、了解ね」

冬の釣果なんて期待できないことは知っているけれど、これが約束なのだ。わたしから破るには、少々理由が足りない。

「なあ、あいつと約束して何回目だっけ?」
「もう八回目だよ。あいつが居なくなって、もう八年」
「長いもんだね。何やってんだか」
「今もくだらない思いつきでぷらぷら遊んでるんでしょ。そろそろ海から這い出してきてもいい頃なのにね」
「おれは嫌だな。だってあいつ、きっとハグしてくるぜ。こんな時期ならさぞ寒いだろうよ」
「まあたしかにね」

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