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ひとコマに命を吹き込む

憧れがそこにあったことを覚えている。

このひとコマを作っている人がいて、受け取っているわたしがいる。
たったひとりの子供に対して、大人の人達が本気で作り上げた作品。
なぜそう思ったのかは覚えていないが、ただ「かっこいい」と思った。

そのままわたしは熱に浮かされたように、この業界の門をたたいた。
学生のころから携わり、しごかれながらよくここまでやってきたなと思う。
憧れの場所にたどり着くまでに時間はかかったけれど、
最近になってようやく自信がつきはじめていた。

そして、その誇りがつい最近まで机に向かってばかりいたはずの男に踏みにじられそうになっている。

「すいません。こちらも完全に想定外でして」

まったくだ。
トラブルなんてよくあることだけれど、
まさか自分たちが手掛けている作品のトレーラーを忘れてしまうとは。
だからといって、プロである以上は手ぶらで帰るわけにはいかない。
しかもスケジュール的にも、もう猶予は数時間もあるかどうか。

悔しいけれど、わたしはひとつの可能性に賭けようとしていた。

「それ、俺に撮らせてもらえませんか!」
「バカお前。畑が違うだろうが!お前の小手先の技術に作品の命運を委ねられるか!」
「でも俺、この原作が好きで、やりたいんです!お願いします!」

ディレクター志望の素質とも言うべきか。
現場が、というよりわたしが一番に欲しい言葉をこともなげに口にした。

「わたしからもお願いします!」

あーあ。あとでどう謝ろうか。
こいつのせいで、この先の仕事がなくなるかもしれない。
それでも、わたしは見たいと思ってしまった。


たった数秒の絵だった。
真っ暗なモニター。眩しい太陽のちらつき。生活感のあるセット。
モニターに光が灯り、白い横書きの文字が現れる。
文字に合わせ、SEを入れてもらう。
文字列が数行つらなったところで、仕込みが終わったのか、
勢いよく行が最下行にあらわれては上へ上へと一気呵成におしあげられていく。
吸い込まれるようにカメラはモニターに近く。
突然、ゆっくりと落ちていくペットボトルが映し出される。
蓋が開いているため、水が口から噴き出したしずくが太陽の輝きにキラキラと光る。


完璧だった。
わたしが相手方と意見を出し合い、作りたいと思っていた絵をこいつは切り抜いてきたのだ。
悔しいというよりも、欲しかったものを与えられた心地がした。
現場にいたものはみな首を縦に振り、わたし達は感謝されながら後にする。

「もう、あんな無茶なことは二度と口にするな」
負け惜しみだとわかっていたけど口にした。
「すいません。でも、困っている顔を見ているのはつらくって」


うまくいっても、どうせ怒られるだろう。
それに、わたしは見つけてしまったような気がした。
半ばやさぐれかけていたわたしに、こいつは夢を見せてきた。

「映画を作るってどう思う」
「いいですよね。俺、好きです。実は今日、少し思っちゃいました」

何を、とまではさしものこいつも言わないのだろう。
言ってしまえば、自分の目指している場所がゆらいでしまうとでも考えたのだろう。

「なあ、オマエがよければさ」

それでも、わたしは口にしようと思ってしまった。
この男に諦めろと言わなければいけなかったとしても。


【企画】広がれ世界

38ねこ猫さんの企画におじゃまさせていただいております。

こちらのお話の続きを書きました。

38ねこ猫さんが続きを書いてくださいました。


こちら、企画を知るきっかけとなったへいたさんの作品になります。
素敵な作品なので、引用させていただきます。

素敵な企画とめぐりあわせていただき、ありがとうございます。



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