冷たい風が好きな子の
冷たい風が好きな子の話だった。あたたかいものに取り囲まれて、暑くなってしまったところから物語がはじまる。
「あなたが殻を破ったら、きっと寒くて凍えてしまうわ」
「暑いんだ。君のそれ、頼むからよしておくれよ」
ぼくはここが好きなんだ。これから何かが始まるって、そんな予感をさせるお決まりのやり口が。
あたたくしてあげるつもりで、どんぐりからすればいい迷惑なことばかり。互いのことは理解し合えず空回り。
わかり合おうとするたびにはなれてしまう心にみんなはこころを痛める。
「ねえ、どうしてあなたは栗でもないのに、そんなにイガイガしているの?」
ぼくはここを読むたび悲しくなるんだ。どんぐりだって、そうしたくてしているわけじゃないのだから。
でも、やっぱりこういうお話って最後はしあわせな終わり方をするんだ。どんぐりは芽吹き、随分と歳をとったその子と出会う。
「早く帰りな。風邪をひかれちゃ寝覚めがわるい」
かつてのやさしさを返そうと、どんぐりは言うんだな。でも、ここからがイカしてるんだ。
「わたし、冷たい風が好きなの。あなたの言葉はあたたかすぎるわ。わたしたち、きっと気が合わないと思うの」
その子はニンマリしながら帰るんだ。どんぐりはあっけにとられたけど、昔のままの友情を示してもらえたことに気づくんだ。
その子は冷たい風が好きなんだ。その歳になってもあたたかいものに囲まれすぎて、暑くなってしまっていたんだ。
ご清覧ありがとうございました。
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