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花かんむりと月


パステル色の光を放ち、月は優しく空を滑る。レンゲソウ、スターチス、ユーカリなどで組まれた花かんむりを被り、月の明かりをたっぷりと含み、原色とは異なる淡い色合いが空を彩る。

「今日のお月さまはどう?」
「きれい。お花をたっぷり被っているわ」
「こぼれた花びらをつかめたらいいね」
「いつものことよ。わけないわ」

虹彩は深い色合いを瞳に移し、スミレ色の彼女の瞳はそっと夜に隠される。街灯に照らされチラつく色味に、焦がれる心を言葉にしまいと彼はこらえて隣を歩く。

彼女の歩幅はまるで子供のようで、ぼんやりと空を見上げながらポツポツと歩いた。
彼はそっと彼女の手を握ると、その小さな手は応えてくれた。それがうれしくて、いとおしくて、心をくすぐるぬくもりが彼の身体を熱くした。

「ねえ、恥ずかしがってるの」
「気にすることないよ。それより足元、気を付けな」
「教えてくれたっていいじゃない」
「別にいいじゃん。ねえ、月がきれいなんだからさ」
「ふふ」

ふたりだけに聞こえる声で、彼女は声をかすかにもらす。言葉はあんまり必要はなく、ふたりはたしかに通じ合うことができている。くすぐったくて、あたたかい。
手のひらににじんだぬくもりは、しずくになって形を成していた。


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