シトラス・ジャム
オレンジが染みて定着するまで、それほど時間はかからなかった。
白い肌着にあざやかな夏色。
彼女は気付かず頬張りつづけ、下腹部にシミをたくさんつくる。
まだ幼いとあきれながら、ぼくは口元を拭いてやった。
「上品に食べてるように見えて、ずっと汁が垂れてるよ」
「わかってるよ」
「それにほら、こんな青いの食べられないって」
「それは未熟に見えるだけなの。おいしいんだから」
ムキになってしまったか、未熟なオレンジが優先された。
食べ方にムラっ気があるせいで胸元にまでシミができはじめている。
シミは徐々に広がって、やがて汗とまじりあった。
頭がおかしくなりそうな鼻をつくあまいにおい。
目線はすでに隠せなくない。
気を紛らわそうと軽くあごをしゃくりあげると、蠱惑的な彼女の瞳。
ああ、気付いていたんだ。
ああ、彼女はきっと。
「あまいよ」
襟元はつまみあげられ、肌着のしきりが現れた。
柑橘系の香りとあまい汗のにおい。
彼女の吐息がふとしきり越しに届いた気がする。
さそわれているような気がして、ぼくはシミにくちづける。
熟した深い味わいと彼女のあまいにおいは、幸福感を与えてくれた。
ふと、反対側から、彼女もくちづける。
とびそうな意識をおさえ、必死にそれにこたえてもとめる。
途中から、味わうことなんて忘れていた。
ただ、ほしくて。ひたすらにもとめつづけた。