その路地
どうしてあの暗い路地に入りたくなるのだろうか。それなりの歳を重ね、一人だけでは恥ずかしくなってしまうようなことも増えてきた。
酒場があるわけでもなく、後ろ暗い人間が寝床としているわけでもない。おそらくは地主やらの小競り合いやその時々の流行によってたまたま出来上がったのだろう。
それくらいがわたしの想像できる程度だった。蓋を開ければ大したことない理由で、なんとなくという言葉が転がっているだけかもしれないが。
カラカラとなる換気扇、なんのものかもわからないケーブル、繁華街の近くにあるというのにしんとしている全てが路地を路地たらしめている。
子供の声がこだましている感じがした。この路地を越えれば、日差しに目が眩むような気がする。入らなければいけない気がした。ただ、入ってしまえば二度と戻れないような、そんな予感もあった。
兎にも角にも、通りで立ち止まるわたしを鬱陶しそうに避けてゆく人々にせっつかれて一歩を踏み出さなければならない。