なぜなに
すっかり目が悪くなってしまったせいか、もう文字は手のひらほどじゃないと見えなくなっていた。
とはいえ、そのせいかぼやけた輪郭からたいていの言葉を予測できるようにもなり、それとなく生活するくらいはできる。
「これなんだ?」
そんなことを知ってか、孫はよくクイズを出すようになっていた。書いた文字を披露してくれるのだが、習いたてのせいかところどころ文字ではないものも混ざっている。
「おさのこさいさい、ね」
「ちがう。おちゃのこなの」
答えるだけで孫はくつくつと笑ってくれた。なんだかいじらしくて、誰に似たのかかわいらしい。目に入れても痛くないとはこんなことなのだろう。
「じゃあ次はこれ」
「おあ?かなあ」
「ぶぶー、あお」
間違ったままにしておけないので、わたしも書いて教えてあげた。けど、孫はそれよりも他の何かに気を取られていた。
「ねえ、おばあちゃんはなんだか風邪のときのにおいがする」
「きっとそれは湿布ね」
「へえ、なにをするの?」
なになぜが始まってしまったけれど、もう少しだけ、わたしはこの子と話ができるならとできる限りに答えてあげた。