よせあつめとつめあわせ
「あなたはこれまで考えたことの寄せ集めでできているのよ。」
そんなふうなことを、謎めいた女性に言われたい。
少し影のあるような、あまり表情を表に出さないような。
アンニュイな。
でも時々無邪気に笑うような。
いま何を考えているのだろうか。
考えることを考えているのだろうか。
ぐるぐる巡る思考。
思考はぐるぐる回る、巡る。
思考停止というのは、思考していないのではなくて。
他に思考が向かわなくなること。
脳内という名のサーキットをブレーキの壊れたレースカーで走り回っている。コースはとても入り組んでいて、世紀末覇者的な衣装をまとった無数のイカれた観客たちが良く分からない飲み物を飲みながら、大歓声あるいは怒号をあげている。
このレースは賭けの対象なのだろうか、あるいはただの無責任な観客なのか。
しばらくしてレースカーは袋小路にはまり込む。
同じところでぐるぐる回る。
レースなのだから目的地というかゴールがあってもよさそうなものだけれども誰もそれを意識していない。
競う相手もいないようなので、「ははあ、これはレースじゃないな」と思うのだけれどもブレーキが無いから止まりようが無い。
「もしかしたらこれはタイムアタックのタイプのレースかもしれないよ」とイヤホンで伝えてくるのはピットクルーだ。
ピットクルーなんて居たんだ!と少し驚く。
タイムアタックの方がそれに集中しやすくて良いな、と思う。
しばし世界的に有名なアクションゲームの主人公が、本編とは関係なくレースに参加していることに思いを馳せる。本編でもレースでも彼はあいかわらず陽気だった。
タイムアタックでは、自分のベストタイムが競う相手となる。
だとしても孤独なレースであるには違いない、と思わざるを得ない。
孤独なレースは続いていく。
そもそもピットに戻ろうにも道が分からない。
だいたい、だれしもが思考の寄せ集めなので。
「よせあつめ」と「つめあわせ」、文字上の意味はあまり変わらないのに「よせあつめ」のほうが少し悪い意味を含むのはなぜだろうか。