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リターンの予測を ある関係から導く

  次男が期末テストの勉強をしている。数学の試験範囲に『相似の証明問題がある』問題を問題のために複雑にしてくる出題者にイライラしながら、既にわかっていることを、数学っぽい文章の仮定から「〇〇と〇〇の角度は同じである」とか「〇〇と〇〇の辺は同じであるとか」「〇〇の比は同じだから」とか順番に書いていかなければならない。

こんなことに何の意味があるのか

 中学生なら屁理屈でも何でもなく、素直な感想だと思う。私も深く共感するのではあるが、今はとても重要な事柄の基本を学んでいるんだと感じることができる。テニスコーチである私から数学の証明問題をみると『ものの見方』を学んでいるのだと感じる。現実の具体的様々な問題を解くのに「どこを見るか」「どこから見るか」はセンスというか、それぞれの感性によるところが大きい。自分の感性だけで全ての問題解決ができれば簡単だが、実際は難しいことの方が多い。そんなとき他の人の見方、いわゆる目の付け所のようなもので、自分の感性にはない素晴らしいところを見ている人たちがいる。そういう人たちの見方を羨ましく思ったり、自分の感性のなさに落ち込むことも多々ある。一方で多くの人が気づかなかないことにより解決できなかった問題を、私の見方が解決の糸口になったりしたときは、人の役に立ったという実感がわき幸せな気分になることもある。みんな同じ物事を見ているのに、それぞれの見方で全く見ているものが変わる。それの基本が数学の証明問題なんだと感じる。

 当たり前であるが、証明問題は中学から高校、高校から大学とその難易度は上がる。中学の証明問題は基本的に大きさ、長さ、比というそれぞれに着目し、公式的な定理を使って解いていく。例えば直角三角形というものがあれば次の二つに着目している。

・3つの角の1つが90°であるか
・「辺の長さ」の間に三平方の定理が成り立つか

 これが高校になるとサインコサインが出てくるので、同じ直角三角形を見ても「角の大きさ」と「辺の長さ」だけに着目していては解けなくなってくる。サインコサインとは角度の大きさを辺の長さに置き換える、または角の大きさを辺の長さの比に置き換えるということである。つまり中学までの見方は『角の大きさと辺の長さに着目』だったが、サインコサインでは『角の大きさと辺の長さの関係に着目』するようになるのである。

 関係とは「1つまたは1組のものが他に対してもつ何らかのつながり」である。テニスコーチなので、1つのものや1組だけの動きだけでなく、それらが関係し合い、仕組みとなり連鎖したり協動、代替したりするという複雑な関係を理解していないと、いろいろと解決できないことが多く、人に説明もできない。

 テニスでは『サーブリターン』について、動きなどの関係を理解できれば、サーブ技術、リターン技術それぞれ飛躍的にレベルアップできると考えている。具体的にリターンの予測方法について、サーブの打ち方からわかる、コースと軌道の関係を書いてみる。

 まず、相手から打たれるサーブを3つに分類する。
①スライス系
②フラット系
③スピン系
当然ながらボールの回転軸の角度が違うため、軌道が異なる。

①スライス系軌道
②フラット系軌道
③スピン系軌道

 
 それぞれに軌道が異なるのは、ボールの回転軸角度に違いがあり、その回転方向が異なるからである。(下図の赤直線は回転方向)

左→③スピン系 右①②のスライス系、フラット系


 この回転方向と深い関係があるのは、大きく2つある。
一つはグリップの握り方である。握り方が薄い方が回転軸角度が大きくなり、厚い方が小さくなる。

左→回転軸角が度大きい 右→回転軸角が度小さい

 なぜかというと、薄いグリップの方が腕とラケットの角度ができやすく、厚いと腕とラケットの角度が出にくいのである。

左→薄い握り 右→厚い握り

 

 回転方向と深い関係がある二つ目は『腰の使い方』である。
ただその前に、少しオーバーハンドで打つサーブの角度について説明しておいた方がいいものがある。それはラケットを握る腕と肩の角度である。オーバーハンドとはいうものの、次のようなイメージではない。

誤ったイメージのオーバーハンド

 よくレッスンで「理論上サーブは四十肩でも可能ですよ」というのは、腕は肩よりも大きく上に上げるわけではないからだ。

正しいオーバーハンドの腕の位置

 あくまで肩と腕の角度の正しいイメージで、実際にこんなに横の低い打点で打つわけではない。実際は頭の上の高い位置でインパクトするのは、腕を上げているのではなく胸椎の動きである。サーブの運動連鎖である leg drive→trunk rotation→long axis rotation の中で trunk rotationの部分である。

trunk rotation

  では本題の『腰の使い方』に入ろう。『腰の使い方』は2つに分類いする。一つはラケットを持っている側の腰を持ち上げる(carry up)で、二つ目はラケットを持っている側の腰を前に出す(bring forward)である。この二つの『腰の使い方』で打点も頭上付近か、やや前かというような違いと関係もあるのだが、重要な関係はボールの回転角度軸が異なることである。

 最後はスウィング方向の確認である。

左→①スライス系 中央→②フラット系 右→③スピン系 

 リターンの目付(予測方法)で、相手サーバーの身長、打つ場所、打点、パワー、コース傾向は必須であるが『腰の使い方』とボール回転軸角度の関係が理解できれば、その精度と早さはもっと高くなる。ボールの回転軸角度から生まれる軌道と、バウンド後の弾み方にも関係があるため、リターンを捕らえる確率が高くなるのである。

 リターンは、予測インパクトゾーンが広すぎると遅れてしまう。『腰の使い方』とボールの回転軸角度の関係から予測できると、その関係に基づく予測インパクトゾーン(青線)は次のようになる。

①スライス系と予測できたら
バウンド地点がセンターでも、軌道が右曲がりのため自分に向かってくる。ワイドはどんどんキレていく軌道に警戒が必要。バウンド後の高さは、弾むことがないので警戒の必要がない。予測ゾーンとしては腰から肩の高さを右側へ横長
②フラット系と予測できたら
まずはスピードに対応できるように。ただし、コースは単調になるため予測ゾーン幅は狭くていい。バウンド後の高さは、サーバーの身長、打点の高さによる。
③スピン系と予測できたら
センター系に高く弾む系の目付が必要。スピードよりは高さで外してくることを警戒。腰を持ち上げてワイドを打つ技術のあるサーバーはやっかいではあるが、スピードはないため処理は可能。

 

 このような方法をレッスンで伝えると、よく次のような質問をされる方がいる。

「予測インパクトゾーン外にくることは絶対にないですか」

まず考え方として、例外的なボールが入るときがあるのはわかる。しかし、それが例外的か、それとも確率的にも高いものなのか見極めが必要である。リターンを捕らえる確率を上げ、より確率的に低いコース、軌道をサーバーに選択させることも重要な戦略である。また、このような論理的な説明には分類上の補助線を引いているが、その補助線付近のサーブを打つ選手もいる。極薄グリップや厚いのに腕とラケットに角度がある選手がいることも事実である。1980年代に活躍したエドバーグは、腰を前に使うのに、グリップが極薄なのでスピン系を打てる選手もいる。また、ベッカーのようにグリップが厚いために、腰は持ち上げているのに強烈なフラットサーブを打てる選手もいる。論理的なものだけでテニスというものを解決できるわけがないので、練習会などでいろんなサーブを打つ選手と戦う経験が必要なのはいうまでもないであろう。教えてもなく、論理的な理解がなくとも、身体が本能的に予測できるジュニアだっている。

 論理的に正しいかどうかで全て決まるわけではない。論理的思考は問題解決に使う一つのツールでしかない。論理とデータで全てがわかるなら、世の中のほとんどの問題は解決できているはずである。言わずもがなだが解決できる問題の方が少ない。そんな中、本当に面白いことだと思うのが『ものの見方』である。いろんな人が、それぞれの『ものの見方』を糸口に、その関係を紐解いていく面白さを楽しめるようになればと、証明問題に苦労している次男を見ながら思うのであった。

おわり(一般公開記事は)

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・コーチ練習会のダブルス動画
・動画解説リターン編(実際に私が何を考えてどう実行したか)
・動画解説サーブ編(実際の私のサーブ動画)
・「こばゼミ」のまとめ

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