単なる芸術鑑賞におけるキュレーションの持つ意味
鑑賞姿勢
絵画、彫刻、映画、本、テレビ、ラジオ。。。世の中には種類を上げ切れないほどに様々なコンテンツが溢れている。それを鑑賞する姿勢もまた、様々だ。
単純にそのコンテンツから発せられるメッセージを受け取り、五感を用いて感じとる。
やいのやいのとコメンタリーをつける。
背景にある歴史、社会を調べあげ、連関を認める。
作者が言外に込めた意図を推察する。
受け取った五感情報から、作者の本当に表現したい部分を選び取る
すべて正解。と僕はおもう。もとい、正解不正解を反すること、それごと不正解なのかな。
最近、これらの鑑賞姿勢をひょっとして使い分けていないだろうかと考えつくようになった。つらつらとその思考に至った話を書こうと思う。
恵比寿映像祭2023での体験
先日「恵比寿映像祭」を訪れた。そこで僕はすべての作品のあまりの情報量に圧倒されたのだった。実際、その情報量は凄まじかった。映像という媒体がそもそも視覚・聴覚という五感の中でも強い印象を持ちやすいものをフルに使い、時間的な幅をも持たせたものである上に、複数モニターの設置やキュレーションの文章など、展示の妙などによって単なるモニターとスピーカーによる出力にとどまらない鑑賞体験を与えていた。
その中でも圧倒され、かつ感動したのはルー・ヤンであり、キム・インスクであり、荒木悠であった。それぞれ、仏教的死生観、在日外国人のアイデンティティ、コピーバンドという完全な不完全といったテーマを持っている。これらの作品全体の情報量から見れば捨象されたテーマ。これらのレンズを通したとき、作品をクリアに捉えることができ、逆説的に捨象した情報を拾いきることができるようになる。
僕には響かなかった作品たちを鑑賞しているとき、(この「映像」という表現方法が多様な情報を鑑賞者に与えるものであることによるのだろうが)作者の純粋な主義主張や、奇怪でありたいという欲求などの情報量の波に溺れる感覚に陥ったものだった。作者が存命であること、これらの表現が作者の意図や主張を高い解像度で運搬するものであることによって、かえって彼らのやりたいことがわからなくなってしまったようにおもわれる。原色ばかりのスーパーのチラシに細かい文字がびっしりと書かれているような。ビビッドすぎてしまうのだ。
現代美術など、作品そのものの情報量や主義主張がビビッドになりやすい表現形態における鑑賞姿勢は、”引き算的”であると良いだろうと思ったのだ。引き算的なキュレーションを自分に対してできたような作品は、鑑賞体験としてのグレードも高い。周辺情報や前提の課題意識などももちろん重要であろうが、それらのものは同時代を生きる者にとっては無意識下に潜んでいることすらあり得る。大切なのは縦軸をどこにおいているかを見極めて、多大な情報を解釈/鑑賞して行くことだろう。
ポップアートと抽象
多少脱線するが現代においてアーティストとして一定の評価を下されている人たち(まあ正確には僕の好きな人たち)は、その作風や表現技法に強い特徴を見出すことができるタイプの芸術家が多いことに気がついた。キース・ヘリング、岡本太郎、アンディ・ウォーホルなどが最たる例だ。彼らの作品は、まずそのタッチに特徴が見出されることによって、それ以外の部分の要素が追従され、鑑賞体験としてまとまりがあるように感じられるのだ。いわば、引き算的なキュレーションを作者の側で済ませてくれていると見ることもできないだろうか。つまり、本当に見せたい部分以外を「特徴的な作風」として消化させることで、心に届きやすい、ある程度捨象された状態でデリバーしていると言えるのではないかと僕は思ったりするのである。
映画に見られがちな鑑賞体験と必要とされるキュレーション
一方で、映画鑑賞などの場合を想起してみる。この場合、作中の時代背景・時代考証、リリースされた時の社会的背景、オマージュされている作品群などの、ストーリーの大筋とは直接は関係しない部分の要素に、作り手が意味を込めることのできる領域が多岐にわたっている。その点で、受け手は足し算的キュレーションを要する。RRRの暴力性の高い描写には、インド人が抵抗によって独立を勝ち取った歴史から、エンターテインメント領域での暴力性の許容度が高いことがあるだの、インドではある意味一般教養の故事のオマージュが含まれているだの、それを現代社会において公開意味は何にあるだの、日本でじわじわ流行ったのにはどういう原因があるだの、単なる勧善懲悪や大義と友情の間で揺れる葛藤といったストーリーそれ自体の他の部分で大いに語られるべき部分があり、受け手はそれに自分の力だけではリーチできないという側面があるように思う。
ま、要は何かを見たり感じたりするときは、それがどちらの(あるいはどちらもの)キュレーションを求めるべきものなのか、少し考えながら鑑賞したいなと思い始めている。
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