むかし書いた韓国コラム #62
細い路地に入ると平屋建ての店舗が並ぶ。看板に書かれた文字はレトロチックな書体だ。さらに歩を進め裏路地に入っていくと、昔ながらの「旅人宿」が数軒並んでいた。映画のセットにでも迷い込んだような錯覚を覚えるが、ソウル・東大門の裏手には時間に取り残されたかのような風景がいまも残っている。再開発が進むソウルからは古き良き時代のたたずまいが急速に消えている。最近のソウルは旅館ですらも姿を消しつつあるのに、トイレ共同で格安の簡易宿泊施設の旅人宿がいまでもソウルに残っていることに感動を覚えたほどだ。真っ昼間だというのに「アガシと遊んでいかないか」と誘ってくる客引きのおばちゃんも普段ならうっとうしいところだが、リアルでレトロな風景の中ではむしろ気の利いたお膳立てのようにも思える。
この風景も先行きは短そうだ。すでに昌信崇仁ニュータウンとして再開発されることが決まっている。懐かしいソウルの原風景はいまや風前の灯火だ。
【解説】
昔ながらの面影を残す通りは観光客にも人気だが、この辺りは観光客がくるような場所ではなく、ごく普通の生活が垣間見られる。ソウル都心部にこうした風景が残っていたことに驚いた。旅人宿の客引きなどもいて風紀的にはどうかと思うがディープな韓国が好きな人なら必見の界隈かもしれない。
(初出:The Daily Korea News 2011年11月9日号 note掲載に当たり解説を加筆しました)