むかし書いた韓国コラム #936

 「いいネクタイしてますね」と言われたらどう答えるか。「いや、たいしたものじゃないです。安物ですよ」などと言うのが日本では一般的だろう。ほめられても一応へりくだる謙虚さというのは日本人の美徳とされる。子どものころ、近所のおばさんにほめられた時に父が「とんだバカ息子でして…」などと言うのを不満に思ったものだが、日本人の謙虚さや謙遜の姿勢は人間関係の潤滑油でもあると大人になってからは理解している。

 初めて韓国に来た知人。あちこち案内したらすっかり気に入ったようだ。「韓国っていいね。住んでみたいなぁ」と言われ、つい「いや、そんなたいしたところじゃないよ」と答えてしまった。その後ちょっと考え込んでしまった。これは謙遜なのか?

 ソウルでの生活も長くなり、いまでは人生で最も長く住んでいる都市となっている。お客さん気分ではなく、ソウル市民としてへりくだったつもりだが、韓国人の前ではうっかり言えない。気をつけねば。

【解説】
 好きで韓国に住んでいるからと無条件でなにもかも称賛する気もないし、批判すべき所は批判もするというスタンスでいる。「韓国っていいね。住んでみたいなぁ」と言われて、「そうだろ? 韓国ってすごくいいところなんだ!」と無責任なことも言いたくない。韓国人の前で「たいしたところじゃないよ」とは言いづらいが、韓国人に「韓国っていいところだね」というとほとんどが「たいしたところじゃないよ」って答えるんだよなぁ。

(初出:The Daily Korea News 2012年9月25日号 note掲載に当たり解説を加筆しました。記事の内容は初出掲載当時のもので現在の状況とは異なる場合があります)

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