むかし書いた韓国コラム #787

 秋夕は久しぶりに日本に帰った。ソウルに戻り大家に付け届けでもしておこうかとおみやげを持って行ったらことのほか喜ばれ、「さすが日本人はそういうところがしっかりしている」と褒められた。

 おみやげを渡して帰ろうと思ったのだが、そのまま部屋に招き入れられ、コーヒーなんかをごちそうになりながら日本の話をしていたら、「これを食べなさい」と松餅(ソンピョン)を出された。秋夕の時に食べる習慣があるというお餅だ。おばさんの手作りだというのだが、これが残念ながらあまりおいしくない。それでも我慢していくつか食べていたら、「おみやげのお礼に持って帰りなさい」と言う。一応遠慮はしてみたが、あれよあれよと言う間に皿に盛られラップをかけられ手渡されてしまった。

 せっかくいただいたものだが、本当においしくないのだ。持って帰ってきたものの食べ物を捨てるのも忍びなく、大量の松餅を前に途方に暮れている。

【解説】
 この当時住んでいた家の大家さん夫妻は本当にいい人だった。大家は日本語世代の高齢者だが、日本に対しては好印象を持っており、部屋探しをしていたときも「日本人なら安心だ」と入居を歓迎してくれた。旧正月や秋夕に家で過ごしていると料理を差し入れてくれたりもしたのだが、残念ながらこれが味が薄くあまりおいしくない。持て余して泣く泣く処分することもあった。本当に親切な行為ゆえに心が痛んだが仕方がない。この後、旧正月と秋夕はできるだけ日本に帰るようにし、帰らなかった時も大家が訪問することのないよう夜は電気を消して息を潜めて過ごしていた。

(初出:The Daily Korea News 2010年9月27日号 note掲載に当たり解説を加筆しました。記事の内容は初出掲載当時のもので現在の状況とは異なる場合があります)

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