むかし書いた韓国コラム #695
新村の羊肉串の店。店員もお客もほとんどが朝鮮族という韓国らしくない雰囲気。日本人の友達と2人で訪れた。韓国語で注文し、その後友達と日本語で話していたら、店のおばちゃんが驚いて「日本人ですか。私むかし日本で働いてました」と日本語で話しかけてきた。聞けば八王子のほうでスナックを経営していたとか。しかも不法滞在で追放されたため現在日本には行けない身の上だという。久しぶりの日本語だと言いながら、あれこれと話しかけてくる。
肉の追加を注文したら「ちょっとサービスしてあげる」とうれしい申し出。「代わりにビール1杯飲ませて」と言う。てっきり社長なのかと思ったらただの従業員だという。気がつくと友達の隣の席に座り込み、延々と思い出話を語り始めた。飲み屋でならありがちな光景だが、ここは羊肉串のお店だ。思わぬところで友との語らいの時間が奪われてしまった。
帰り際、「サービスするからまた来てね」と言われたが、再訪するかは決めかねている。
【解説】
飲食店ではときどき日本で働いていたという店員に出会うことがあるが、ただの店員がここまでずけずけと同席するケースは珍しい。友達との語らいの時間は奪われてしまったが、こういう緩さは嫌いではない。
(初出:The Daily Korea News 2012年3月6日号 note掲載に当たり解説を加筆しました。記事の内容は初出掲載当時のもので現在の状況とは異なる場合があります)