むかし書いた韓国コラム #613

 床屋に行くのはいつも緊張だ。微妙な加減を説明するのが難しい。指示を出せるのは「耳は出して」「もう少し短めに」くらいで、「刈り上げにしないで」「もみあげは切らないで」とはとっさには出てこない。「えーと、あ、あぁ…」としどろもどろになっているうちにもみあげがきれいさっぱり刈られているという失敗を繰り返してきた。そこでやっともみあげは韓国語で「クレンナル」ということを覚えた。

 ところがこのところ「もみあげは切らないで」と言う機会がない。同じ店に通っているため床屋のおやじもすっかりこちらの好みのカットを覚えているということもあるが、最近はもみあげをきれいにカットしている韓国人男性があまりいないのも一因だろう。少し前までは日本人と韓国人を見分ける方法としてもみあげを見たものだが、近ごろでは使えなくなった。ともあれ、もみあげの心配をしなくてもいい時代がやってきたというのは歓迎したい。

【解説】
 なじみの床屋は10年以上通ったせいか、なにも言わずとも適当に仕上げてくれるので楽だったが、引っ越しを機に別の床屋の開拓を迫られることになった。新たな床屋ではもみあげを刈られないか心配だったが、特になにもいわなくてもちゃんと温存してくれるようになったのは幸いだ。

(初出:The Daily Korea News 2009年10月13日号 note掲載に当たり解説を加筆しました。記事の内容は初出掲載当時のもので現在の状況とは異なる場合があります)

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