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木箱記者の韓国事件簿 第31回 模範タクシーで料金トラブル

 模範タクシーは料金トラブルがなく旅行者でも安心して乗れる――ということになっている。しかしトラブルは皆無ではない。

 つい先日のこと。羽田発最終便で金浦空港に降り立ち、タクシー乗り場に向かった。一般タクシーは7~8人が並んでいた。遅い時間でもあり早く帰りたかったのでだれも待っていない模範タクシーを選んだ。空港からの一般タクシーはトラブルになる確率が高いことも模範に乗った理由だ。

 運転手に行き先を告げ順調に走っていたのだが、10分ほど走ったところで運転手が「お客さんすみません、メーターを倒すのを忘れてました」と言い出した。「目的地までは3万5千ウォンが相場です」とのこと。「へぇそうですか」と答えながらこちらも臨戦態勢に入る。スマホでタクシー料金の相場を調べるが、そういうサイトは見つからず。そうこうしているうちに自宅前に到着した。途中で倒したメーターの表示は2万5千ウォン。運転手は3万5千ウォンと言う。そこで領収証を要求した。メーターをいじくり「追加料金」に8千ウォンと入力し出てきた領収証は3万3千ウォン。なにが追加なのかわからないし、残りの2千ウォンはどこに行ったのか意味がわからない。

 そこで降り際にカメラでナンバープレートの写真を撮って引き揚げようとしたら、運転手が車を降り血相を変えて走ってきた。

 「お客さん、なぜ写真を撮るんですか」
 「え? 撮られてまずいことでもしたの?」
 「すみません、メーターの件は私のミスです」
 「ですよね。だからしかるべきところに通報しないと…」
 「いえいえ、でも本当に相場は3万5千ウォンほどなんです」
 「そんなの私にわかるわけないでしょう。そのためにメーターが付いているのにメーターを倒さなかったんだから」
 「わかりました。1万ウォンお返ししますから」
 「いや、3万5千ウォンが相場なんでしょ?」
 「そうですが私がミスしましたので…」
 「ミスしたことは認めるんですね?」
 「認めます」
 「じゃあいいじゃないですか。事実を事実通りに通報しますから。ウソは言いませんから」
 「お客さん、本当にすみません。本当にうっかりミスなんです」
 「模範タクシーの運転手ならベテランなんでしょ? 何年やってるの? 客が乗ったらメーターを倒すのは基本でしょ? こっちは料金トラブルに遭わないために模範を選んでるのにこれじゃ信用できませんよ」
 「本当にこんなこといつもはないんです」
 「とか言ってあしたまた同じことするんじゃないの?」
 「本当に申し訳ありません。1万ウォンお返しします。領収証もちゃんと出しますから…」

 15分ほどやり合ったが、自分よりかなり年上の運転手が哀願するのを見てだんだん怒りも収まってきた。ここらで手を打たねばなるまい。「じゃあそれでいいですよ」と運転手の提案を飲み、正規の領収証と1万ウォンを受け取った。スマホの写真も「削除するから確認してね」と運転手に見せながら削除した。約束したので通報はしないが、帰って早々に模範タクシーで料金トラブルに遭うとは思わず、帰宅後もしばらくイライラが収まらなかった。なお、その後周りの韓国人に尋ねたところ、料金自体はそのぐらいが相場のようで、運転手は決してぼったくろうとしたわけではなさそうだ。

 この事件の直後、ヘラルド経済新聞に「模範タクシー誕生25年」の特集記事が掲載されているのを見かけた。記事によると最近は模範タクシーの利用者が減っており、運転手も収入が激減するなど苦境に立たされているらしい。そう考えると今回の私の対応は少々大人げなかったかもしれない。ただ「模範」の看板を掲げている以上、不明瞭な料金を請求したのは運転手の非だろう。収入が落ち込んでいる中で1万ウォンを取りっぱぐれるのは痛手かもしれないが、メーター通りの請求だったならチップとして5千ウォンくらいは上乗せしたかもしれないのに。

初出:The Daily Korea News 2017年2月27日号 note掲載に当たり加筆・修正しました。

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