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数式が読めると物理がおもしろくなる
私は、高校生くらいから、素粒子や宇宙といった物理学に興味を持つようになりました。
物理学が好きになった理由はいくつかありますが、アインシュタイン方程式を解いて、宇宙のことがわかったというような文章を本で読んだことが1つです。内容は理解できませんでしたが、机上の数学で、広大な宇宙のことがわかるのかと、衝撃を受けました。
物理学に興味を持つようになり、高校の図書館で講談社のブルーバックスを借りたり、本屋で雑誌「Newton」を買ったりしました。
それは、それで面白かったのですが、何か物足りなさも感じました。Newtonの図解はビジュアル的でイメージはつかみやすいのですが、なぜそうなるのかの核心が理解できません。ブルーバックスは、文字数を割いて書かれているので、いくらか理解が深まりますが、やはり核心部がわからないもどかしさを感じていました。
ある時、相対論に関するブルーバックスの本を読んでいると、いくつか方程式が並んでいました。1つは、電磁気学の基本方程式であるマクスウェル方程式というものです。
$$
\begin{align*}
\mathrm{div}\vec{D} &= \rho \\
\mathrm{div} \vec{B} &= 0 \\
\mathrm{curl}\vec{E} &= -\frac{\partial \vec{B}}{\partial t} \\
\mathrm{curl} \vec{H} &= \vec{j} + \frac{\partial \vec{D}}{\partial t}
\end{align*}
$$
1つと言いつつ、4本の式から成り立っています。(curl は rot と書かれることが多いですが、初めて読んだ本は curl でした。) 当時、高校生の私には、正直、さっぱりわかりませんでした。しかし、なぜかワクワクしました。共感してもらえるかわかりませんが、何だかカッコいいと感じました。(マクスウェル方程式を説明し始めると長くなるので、またの機会にします。)
マクスウェル方程式以外に、特殊相対論での速度の合成も記されていました。
$$
\begin{align*}
v = \frac{v_A + v_B}{1 + \frac{v_A v_B}{c^2}}
\end{align*}
$$
$${c}$$は、光の速さ(光速)で、秒速約30万kmです。速度$${v_A}$$と速度$${v_B}$$を合成すると、上記の$${v}$$になるということです。もう少しわかりやすく表現すると、例えば、速度$${v_A = 60 \mathrm{(km/h)}}$$で走る車からボールを速度$${v_B = 120 \mathrm{(km/h)}}$$で投げた時、車に乗っていない人が見た時の速度というところです。(身近なようで、ありえない例えですみません。車からボールを投げてはいけないですよね。)
この式は、理解と言えないまでも、高校時代の自分にも体感できました。なぜ、光速が関係するかという理屈はともかく、数式に当てはめるといろいろなことが読み取れます。
$${v_A}$$と$${v_B}$$が光速より十分遅い時は、常識的な感覚と一致する。
スポーツカーがいくらスピードを出しても、一流のプロ野球選手が豪速球を投げても、光速よりは十分遅いので、身近な生活での場面はほとんど当てはまります。
この場合、$${\frac{v_A v_B}{c^2} \fallingdotseq 0}$$と考えて差し支えありません。ちなみに、上で挙げた時速60kmの車から、時速120kmのボールを投げる例の場合、$${\frac{v_A v_B}{c^2}}$$は、160兆分の1くらいです。具体的に、0.000000000000006……と書いてみると、1も1.000000000000006……も同じと考えて良いという感覚がわかります。したがって、
$$
v = v_A + v_B
$$
で、常識的な感覚(物理学用語ではニュートン力学)と一致します。
決して光速を超えることはない。
感覚的には、$${v_A}$$や$${v_B}$$が光速の場合や、光速に近づくと、合成速度は光速を超えそうな気がします。しかし、速度の合成則に、$${v_A = c}$$を代入すると、
$$
\begin{align*}
v &= \frac{c + v_B}{1 + \frac{c v_B}{c^2}}\\
&= c
\end{align*}
$$
で、$${v_B}$$に関わらず、合成速度は光速のままです。$${v_A = v_B = c}$$ の場合、合成すると $${c + c = 2c}$$ で光速の2倍になりそうですが、やはり光速$${c}$$のままです。
以上から、光速を超えることはなさそうなことはわかります。もう少し、きちんと計算すると、
$$
\begin{align*}
c - v &= c - \frac{v_A + v_B}{1 + \frac{v_A v_B}{c^2}} \\
&= \frac{c + \frac{v_{A}v_{B}}{c} - v_A - v_B}{1 + \frac{v_A v_B}{c^2}} \\
&= \frac{c \left( 1 - \frac{v_A}{c} \right) \left( 1 - \frac{v_B}{c} \right) }{1 + \frac{v_A v_B}{c^2}}
\end{align*}
$$
より、$${|v_A| \leqq c, |v_B| \leqq c}$$ であれば、上式は0以上、つまり$${v \leqq c}$$ となり、速度を合成しても光速を超えないことが確認できます。
言葉や絵で説明されるよりも、1行の式が多くのことを語っており、数学や物理ってすごいと、1人で感動にひたっていました。
もっと本格的な数式を使った物理学を学びたいと思いましたが、私の住んでいた田舎の町には本屋がなく、隣の町の本屋も大きくないので、数式をガンガン使った本格的な物理の本はありませんでした。
毎週日曜の新聞に、新刊紹介の欄があり、自然科学関係の本の紹介を読むのが楽しみでした。「宇宙論」「素粒子」「相対性理論」といったキーワードを見るだけで、ワクワクしていました。
あれから30年以上が経ちました。今では、インターネットで検索すれば、数式を使った本格的な物理学の情報にアクセスできるようになりました。
読者のみなさんに共感しえもらえるかはわかりませんが、数式は、シンプルでもいろんな情報を含んでいて、味わいがあります。1本の数式の方が、長文の説明よりも、本質の理解に役立つことも、多々あります。正しいか間違いかを、自分なりに検証することもできます。数学嫌いの方には、少し大変かもしれませんが、よろしければ、お試しください。
以下の記事で、必要最低限の数学で、量子力学をイメージできる説明がしたいと書きましたが、なかなか時間が取れず、できていません。量子力学の記事ではありませんが、今回の記事で、数式で理解するというのを、少しでも感じていただけたら、うれしいです。