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実年齢と感じる年齢

時間の流れは常に一定でしょうか?「子どもの頃は1日1日が長く感じたのに、最近は1年があっという間に過ぎる気がする」という方も多いのではないでしょうか?

高校3年生のとき、担任の先生に、「小さい頃の1年間とくらべると、今年の1年間は短く感じたと思う。なぜなら、18歳の1年間はそれまで生きてきた18年分の1年なので、短い。これから先はどんどん速くなっていく。」といったようなことを言われました。なるほど、確かに若いうちの1日1日は大事にしなければと、素直に思いました。

次に、仮に80歳まで生きるとして、感覚的な折り返し点は何歳なんだろうという疑問がわきました。40歳でないのは確かで、それより若いはずです。気になったので、数学的に考えてみました。

数式に抵抗がある方は、途中は読み飛ばして、太字の結果を(疑いながら)楽しんでみてください。

仮説

人が感じる時間の長さは、年齢に反比例する。

数学的に表現すると、「$${t}$$歳の人にとって、$${∆t}$$年は、$${⊿t/t}$$の長さに感じる」(図1)という前提で、実年齢(暦上の年齢)と自分が感じる年齢(感覚年齢と呼ぶことにします)の関係を検討しました。

図1. 年齢ごとに感じる時間の長さ

現在の感覚年齢は何歳か?

年齢が上がるにつれ、同じ$${⊿t}$$年が短く感じるようになります。寿命が$${T}$$歳だとすると、一生で感じる年齢に対する今までに感じてきた年齢の比から、感覚年齢$${t_{eff}}$$は以下のようになります。

$$
t_{eff} = \frac{T\int_0^t \frac{dt}{t}}{\int_0^T \frac{dt}{t}} = \frac{ T\left[{\ln t} \right]_0^t}{\left[ {\ln t}\right]_0^T}
$$

ここで、$${\ln}$$は自然対数です。このままでは分子も分母も発散するので、極限で考えると、

$$
t_{eff} = \lim_{\varepsilon \to +0} \frac{T\left[ {\ln ⁡t} \right]_ε^t}{\left[ \ln ⁡t \right]_ε^T} = \lim_{\varepsilon \to +0} \frac{T(\ln ⁡t - \ln ⁡\varepsilon )}{\ln ⁡T- \ln \varepsilon )}
$$

となります。

$$
\lim_{\varepsilon \to +0} \ln \varepsilon = - \infty
$$

なので、$${t>0}$$(つまり誕生した瞬間でないとき)であれば、

$$
t_{eff} = T
$$

となり、生まれた直後に人生はほとんど終わっているという悲しい結論になります。

実年齢3歳から80歳までの感覚的な折り返し点は?

生まれた瞬間に人生が終わってしまうという結論では悲しすぎるので、例えば、3歳から80歳まで生きる場合の折り返し点を求めてみます。折り返し点を$${t_{1/2}}$$歳とすると

$$
\int_3^{t_{1/2}} \frac{dt}{t} = \int_{t_{1/2}}^{80} \frac{dt}{t}
$$

という方程式より算出できます。上式を解くと、

$$
\ln⁡ t_{1/2} - \ln⁡ 3 = \ln ⁡80 - \ln⁡ t_{1/2}
$$

より

$$
t_{1/2} = \sqrt{80×3} = 15.49
$$

となり、だいたい15歳で感覚的には人生の折り返しという結論になります。若いような気もしますが、何となくそうなのかという気もします。専門知識や人生経験は15歳以降に習得したかもしれませんが、日本語、計算、生活習慣といった基本的なことは15歳までに多くを習得していると思います。50歳の人が、仮に何も知らずに育って、小中学校の9年間の勉強を習得しようとすると、非常に大変だと思います。

50歳からの20年間は20歳の何年間に相当するか?

これでも、(若い人以外の)ほとんどの読者の方は人生があとわずかという気分になりそうなので、50歳から70歳までの20年間が、20歳からの何年間に相当するかを計算してみます。この解を$${t}$$歳とすると、

$$
\int_{20}^t \frac{dt}{t} = \int_{50}^{70} \frac{dt}{t}
$$

を解いて

$$
t=\frac{70×20}{50} = 28
$$

より、28歳が答えとなります。

長いと感じるでしょうか?短いと感じるでしょうか?短いと言えば短いですが、20歳からの8年間はいろいろ吸収して社会人として1人前になる期間なので、50歳からでも何かできるという気にもなります。

⊿t/tではなく ⊿t/√t と感じる場合

ここまで時間の長さは年齢に反比例して短くなるという前提で計算してきましたが、80歳の1年間は、20歳の1/4かと言われるともう少し長い気もします。根拠はありませんが、80歳の1年間は20歳の1/2すなわち$${\sqrt t}$$に反比例するという仮定で再計算(大げさに言えば理論を再構築)してみます。

図2. 平方根に反比例する場合の 年齢ごとに感じる時間の長さ

最初の式をtではなく、$${\sqrt t}$$に置き換えて計算し直すと、

$$
t_{eff} = \frac{T\int_0^t \frac{dt}{\sqrt √t}}{\int_0^T \frac{dt}{\sqrt t}} =\frac{T\left[ \sqrt t \right] _0^t}{\left[ \sqrt t \right]_0^T} = \frac{T \sqrt t}{√T} = \sqrt{Tt}
$$

より、$${\sqrt{Tt}}$$が感覚年齢となります。

寿命$${T}$$が80歳の場合、実年齢と感覚年齢の関係は、図3のグラフになります。

図3. 平方根に反比例する場合の感覚年齢

この場合、人生80年間の場合、人生の折り返し点は20歳になります。実年齢40歳、50歳、60歳での感覚年齢は、それぞれ56歳、63歳、69歳となります。

一応のまとめ

「$${t}$$歳の人にとって、$${∆t}$$年は、$${⊿t/t}$$の長さに感じる」と仮定して、実際に感じる年齢を検討しました。0歳が特異点となり、発散し、得られる結論もそのままでは感覚とのずれがあります。根拠はありませんが、時間の長さが実年齢の平方根に反比例すると仮定すると、それらしい関係は得られました。

最後に

高校時代の恩師のことばを数学的に検証すると、必ずしも正しくないかもしれません。しかし、何気ないことばを、真面目に(?)検討すること自体が面白いと、私は感じます。私が初めて考えたのは、大学生のときで、今から30年以上前です。今、改めて、文章にしてみることで、自分の人生設計を考え直すヒントが得られました。

ただし、科学的根拠はないので、今回得られた結論(数字)はうのみにしないでください。そんな考え方もあるのかと、少しでも楽しみ、考えるきっかけとなれば、うれしいです。

ちなみに、年を取ると時間が速く感じるのは、新しいことを経験することや感動が減ることが原因だという説もあります。マンネリ化したサラリーマン生活から、毎日、新たなワクワクを感じる人生に切り替えれば、人生を長く味わえるのかもしれませんね。

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