「鬼滅の刃」と「悪魔の証明」
2年前、子どもにお願いされて「鬼滅の刃」の映画を一緒に観に行きました。その後、子どもに影響され、鬼滅の刃に詳しくなりました。
鬼滅の刃の中に、鬼の禰豆子(ねずこ)が人を食わないことを証明させられる場面があります。
鬼滅の刃をご存じない方のために、簡単に解説します。鬼滅の刃の設定では、人が鬼に襲われると鬼になり、鬼になると人格が変わって、人を食うようになります。主人公の竈門炭次郎の妹の竈門禰豆子も鬼にされましたが、人としての理性を維持しています。炭次郎は鬼を退治する鬼殺隊に入隊し、鬼狩りをしていましたが、鬼の禰豆子をかくまっていることで、他の隊員から責められます。鬼滅の刃の解説は多数ありますが、詳しく知りたい方は、例えば、以下のリンクを参照してください。
鬼は血が好きで、血があると人間を襲うので、ある隊員(不死川実弥)が自分の血を出し、禰豆子を挑発しましたが、禰豆子は人を襲いませんでした。そこで、鬼殺隊のトップ(お館様)からは、
「禰豆子が人を襲わないことの証明ができたね」
と言われ、禰豆子は容認されました。
しかし、数学的には「証明」とは言えません。証明すべき命題は「禰豆子ならば、人を襲わない」ということになります。もし、禰豆子が1回でも人を襲えば、この命題は間違っていることが証明されます。「禰豆子は、人を襲ったことがない」という証明であれば、比較的容易で、過去の事実を調べればできます。未来に向けて、証明することは、困難な場合が多いです。
例えば、「彼は絶対に万引きをしない」を証明できるでしょうか?彼が良識ある少年で、万引きをする可能性は低いとしても、未来永劫保証できるでしょうか?こういった困難な証明を「悪魔の証明」と呼びます。悪魔の証明をしろと言うのは、言いがかりに近いです。
禰豆子が鬼と戦い、人を襲わなければ、「禰豆子ならば、人を襲わない」証明になりそうですが、残念ながら、いくら実績を増やしても「証明」になりません。ましてや、1回、人を襲わなかったぐらいでは、とても証明にはなりません。似た例として、「カラスは黒い」を証明したくて、カラスを片っ端から調べても、世界中のすべてのカラスを調べつくさない限り、証明にはならず、現実的には不可能です。
ただ、証明にはならないものの、禰豆子が人を襲わない確率は高くなります。一般の鬼が人を襲う確率と、禰豆子が人を襲う確率を比較すれば、有意差ありという結論は得られるかもしれません。
私は製造業に従事しています。ものづくりの設計品質保証では、時に悪魔の証明に近いことが求められます。そういった場合
構造的に絶対に問題が起きない設計にする。
問題が起きる確率を極度に低くする。さらにそれを組み合わせることで、確率をほぼ0にする。
異常が起きても、致命的な問題にならないようにする。
といった対策で対応します。禰豆子が竹を加えているのは、そういった考えた方に合致します。
なお、「禰豆子は人を襲う」という証明は、「禰豆子は鬼である」「鬼は人を襲う」という三段論法で証明できる可能性があります。ただし、禰豆子は従来の鬼の概念に含まれるか、本当にすべての鬼が人を襲うかというのを検討する必要があり、禰豆子が実際に人を襲わない限り、難しいです。
厳密な「証明」が難しい場合、「統計」も重宝されています。
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