風邪5類化法案パブコメ・意見提出の参考情報
2024/08/14 20:47更新 ワクチン開発の件を追加しました。
2024/08/06 01:20更新
目次を見て興味のあるところを参考に意見を出して頂ければと思います。
なお、下記のnoteに意見の例を挙げていますのでご参考になれば。
急性呼吸器感染症(ARI,風邪)五類化法案に対するパブコメに提出する意見の参考にして頂くため,私が思い付く問題点や意見をまとめます。まとまって作業ができないのでとりあえず公開して順次加筆修正したので整理が不十分ですみません。具体的な意見例は上のリンクからどうぞ。
パブコメそのものや関連情報は下のnoteにまとめました。
パブコメは無駄ではありません
先日の新型インフルエンザ等対策政府行動計画改定案のパブコメで,19万を超え20万に迫る意見を出したのにほとんどスルーされたことから,パブコメは無駄だと思う方も多いと思います。
しかし,まず今回は事情が違います。
前回は「任意」つまり義務ではないのに自主的に行われたパブコメでした。そうすると意見を考慮する義務も基本的にはありません。しかし今回は「行政手続法」に従って行うのが義務となるパブコメです。「意見を十分に考慮する」という法的義務があります。役人は法律で動きますのでこの違いは大きいです。
また,前回は計画の改定は避けられない状況でしたので内容勝負でした。しかも改訂部分はものすごく多くありました。計画や改訂に反対という意見ではなく,具体的に改訂内容について指摘する必要がありました。しかし今回は5類指定,特定感染症予防指針策定の是非という問題ですので,何が起こるかが明確で反対しやすいです。
さらに,さすがに風邪の5類化はいろいろ無理があるようで,感染症部会の委員も納得していない様子であり,聞くところによると普通の医師もざわついているようです。厚労省もゴリ押しはしにくい面があると思います。
また,前回19万も出してしまったので,ここで急に黙れば納得したことにされてしまいますし,一般国民から見ても「結局その程度か」と思われそうです。
前回の件がなくとも,パブコメという機会があったのに何も言わなければ,後になって文句を言っても「あのとき言わなかったじゃないか」と言われます。後出しの意見では説得力を持ちません。アリバイ作りと言えば言葉は悪いですが,「出した」という事実を残すことは重要です。
向こう側もそれは心得ています。日本医療政策機構という元東大医学部教授が「終身名誉チェアマン」を務めるシンクタンクも先日の19万パブコメに意見を出していました。これ以外にも多くのパブコメを提出しています。反対意見がなければ,政府は賛成意見の言いなりにした上で「パブコメを考慮した」と堂々と言えます。
ついでに言えば,弱き者の闘いに勝算があることなどほとんどありません。それでも根気強く闘いを続けてきてこその現在の自由があります。諦めてしまっては先人が長年命がけで勝ち取って来た自由はあっという間に消えてなくなります。
パブコメは単なるガス抜きではありません。
意見を出すべきポイント
【最大のポイント】WHO への協力に5類化は不要
今回の省令改正の(少なくとも表向きの)最大の目的は急性呼吸器感染症のサーベイランスつまり調査です。これは WHO の勧奨に応えるものです。
もちろん WHO に従わずサーベイランスそのものをやるなと訴えるのも必要です。しかし,厚労省もさすがにこれはなかなか引くわけにいきません。完全阻止は相当困難です。
そこで WHO が言っていることを見ると後で書いたように,あくまでアブナイ感染症を見つけるためのサーベイランスであり,風邪を追いかけ回そうというものではありません。つまり,
「WHO や他国と歩調を合わせるにしても,サーベイランスのために風邪の5類化,ましてや特定感染症予防指針策定など不要であり,本来の目的以外にリソースを割かなければならず弊害が大きい」
と考えます。ここが一番の攻めどころだと思っています。WHOの勧奨という大義名分のあるサーベイランスを理由にして5類化と言っているので,それは理由にならないことを訴えたいと思います。
「5類化の目的はサーベイランス」と言っても5類は5類です。一度5類にしてしまえば後からいろんなことができます。「小さく産んで大きく育てる」は人を支配しようとするときの常套手段です。
また,後で書くように武見大臣が記者会見で「風邪のワクチンを検討中」と言いましたが,これも強く追及すべきです。「サーベイランスだけじゃないじゃないか,風邪のワクチンなどメリットは小さくデメリットが大きい」と。
風邪全般の5類化
もっとも根源的な事項です。5類感染症はすべての伝染病の中で最低ランクということではありません。政府と国民に法律で対策が義務付けられる重要な伝染病の中での最低ランクです。ここで「伝染病」と書いたのは,法律の中で5類以上に指定されているものだけを「感染症」と呼ぶことになっているので,法律で指定されていないものも全て含める意味で「伝染病」と書きました。
そのような特別な伝染病として風邪を指定するのはおかしいというのが最も基本的な問題です。
特定感染症予防指針の策定
今回,「特定感染症予防指針」というものを風邪に対して定めようとしています。この指針は「感染症のうち、特に総合的に予防のための施策を推進する必要があるもの」について定めると法律で決められています。
5類にすることすらおかしいのに,その中でも「特に・・・」というものに風邪が該当するはずがないというのが問題です。
なお,インフルエンザについては指針がすでにあります。今回,それを廃止して下の図の赤線で囲んだ範囲全体を急性呼吸器感染症(ARI)と呼んでそれについての指針を作ろうという案になっています。黄色部分が普通の風邪に当たります。
検体提出に関する個人情報(遺伝情報)の問題
指定された医療期間において,現在はインフルエンザ患者についてのみ検体の提出が義務付けられていますが,この対象を他の5類や風邪にまで広げようというのが今回の案です。
感染症部会委員のうち法学部教授と弁護士が,患者の遺伝子情報という究極の個人情報が検体に含まれるにもかかわらず,本人に十分に説明しないで政府の所有物とすることに懸念を示しています。
これに対してえ厚労省側言い分は以下の通りです。
要するに,患者の検体は遺伝情報を含もうが当然,所有権は国だと思っていたが,たくさん異論が出たので一応考えてみます,みたいな話です。
ほんとに任せて大丈夫でしょうか?
感染症部会でも異論続出
感染症部会の検討はたいてい「シャンシャン」で終わりますが,この件についてはほとんどすべての出席者から現場の混乱と負担を懸念する声が出ました。これは紛糾と言ってもよいかも知れません。
例えばちょっと長いですが,「全国衛生部会」会長は次のように述べました。
要するに,定点となってる小児科は大変な中,コロナのサーベイランスでも嫌気が差したのに風邪まで始めたら定点やるとこなくなるぞ,ってことです。つまり相当無理があるということであり,医療界こそ反対すべきです。
目的はサーベイランス?
反対してもやるでしょうがやっぱり反対
厚労省は風邪の5類化の目的としてサーベイランスを前面に出しています。いろんな懸念をぶつけても「今回の改正では目的としておりません」などとシラッとかわされる可能性は大きいです。
また,サーベイランスはWHOや他国の動向に合わせるためと言っていますから,サーベイランスそのものに反対しても「これは世界的な動向でありわが国も貢献しないわけにいかない」などと少なくとも何らかの形で強行しようとするでしょう。
そのような逃げ方をできないように工夫して意見を出すのが望ましいと思います。ただし,そうは言ってもやはり数は力なのでとにかく反対という意見も怯まずどんどん出すべきだと思います。
今でもこんなことやってます。これにさらに従来の風邪を足す必要があるでしょうか?
WHOのARIサーベイランス推奨に応えるのに5類化は不要
基本的にARIサーベイランスはWHOが旗を振り世界へ呼びかけています。ではWHOに同調するために本当に5類化が必要か?といえば違うと思います。
WHOはARI(急性呼吸器感染症)の中にILI(インフルエンザ様疾患),SARI(重症急性呼吸器感染症)という分類を設定しています。ざっくり言ってILIは結構症状がきつくて熱も高いもの,SARIはさらに入院するほどひどいものです。風邪はARIの中では最も軽い部類です。
ARIに対し,WHOは単一の対策で対応できるものではなく多様な対策をモザイクのように組合わせる必要があるとして「モザイク・フレームワーク」という枠組みを提示しています。
その中で,SARIでもILIでもない範囲のARI,まさに厚労省が新たに5類に加えようとしている普通の風邪のサーベイランスについて,WHOは特殊な症状のあぶり出しや全体の傾向からの感染対策の効果の評価などに有用と考えています。風邪を見張っていれば特殊な症状の患者を見つけやすいとか,風邪の流行り方を見ていれば社会の感染対策がうまくいっているかどうかがわかる,といったことです。つまり,風邪を見つけ出して隔離しようとか治療しようとかという話とは基本的に違います。問題にしているのは基本的に ILI または SARI です。各国のサーベイランスの例をケーススタディとして紹介していますが,これらもすべて対象は ILI,SARI,または COVID-19 です。
日本の感染症はその第1条に目的を「感染症の発生を予防し、及びそのまん延の防止を図り」と定めています。
5類感染症を最低ランクの感染症と誤解している人も多いようですが,5類は感染症法による類型の1つです。感染症法の類型に分類されると,政府や国民にはその対策が法的義務となります。そして,どの類型にも分類されていない,我々が「無類」と呼んでいる,感染症法の適用を受けない伝染病(ここでは感染症と区別して敢えてこう呼びます)もたくさんあります。いわゆる風邪もそうです。
ARIサーベイランスは,風邪そのものを予防したりまん延の防止をしたりということが基本的な目的ではありません。したがって,サーベイランスを行うために5類にする必要はありません。大事なのは従来の風邪とは違う病気を見つけることであり,従来の風邪を追いかけていては無駄どころか有害です。公金を使うにはきちんと法的根拠があった方が明快なので,5類化した方が公金を使いやすくなるのは確かでしょう。しかし今となってはサーベイランス自体に世論は強くは反対しないでしょう。現在のSARS-CoV-2感染(新型コロナ)やインフルエンザ感染の予防のために他のウイルスを検査してはいけないなどという決まりはありません。5類化しなくとも世論の賛同は得られます。サーベイランスの「おまけ」に予防や対策の根拠を作る必要はありません。ましてや5類の中でも特に総合的な対策を要する,特定感染症予防指針の対象とするのは全くおかしな話です。
また「世界の流れだ,米国もやっている」などと言うかも知れませんが,日本のインフル/新型コロナの定点は約5000,アメリカは病院が20ヶ所あまりでその他も数百。世界に歩調を合わせる上でも,また,実効性を考えても,地方の小さな診療所などを定点にしなくとも数百もあれば十分と考えられます。そのために5類である必要はありません。いや,サーベイランスのために5類にすると次に述べるような矛盾が生じます。
いやいやワクチン作る気満々
武見大臣は,7/26と8/2の会見で風邪を含むARIの5類化に関する質問に答えましたが,目的の説明がどんどん変わっています。
最初は「平時より呼吸器感染症の包括的なリスク評価を行うため」,つまりあくまで調査による状況把握のためと述べました。
しかし,その結果として「迅速に適切な感染症対策の検討を行うことに繋がる」,つまり風邪対策の検討に使うとのことです。
さらに話題が特定感染症予防指針になると「風邪のワクチン開発に関しては、・・・引き続き検討」「ワクチンが有効な感染症である場合にはワクチン開発も検討」,つまり風邪についてもワクチンが効きそうなら開発すると述べました。
話が違う!
「小さく産んで大きく育てる」が支配者の常套手段だが,もう育ち始めています。この先どこまで育つかわかったもんじゃありません。
mRNAワクチンならウイルスの遺伝子情報だけあればすぐに作れます。効果と害の確認なんて,,,わかりますよね。200以上といわれる風邪ウイルス,ネタは尽きないでしょうね。
【大臣会見記録】
令和6年7月26日(金)11:16~11:32
令和6年8月2日(金)10:54~11:09
そもそもパブコメの条件を満たしていない
パブコメは「行政手続法」という法律に定められた手続きです。その第39条第2項に,
とあります。定義も定まっていないARIの取扱いをどうこうするという内容は明らかに具体的でも明確でもありません。定点機関からの報告を求める ARI の範囲が定まっていない状態でのパブコメは具体的でも明確でもありません。こんなパブコメは違法です。
上の「定義も定まっていない ARI」はちょっと問題があると思ったので訂正です。一応,ARI の定義は
と定められています。
「それ,風邪全部じゃん」「鼻垂れた,咳出た,で全部5類?」「感染によるものか全部確定できるの?」とか,いろいろ「?」が浮かびますが,厚労省は「これが定義だ」と言ってますので,噛みついても逃げられると思います。
一方,サーベイランスで定点機関からの報告を求める対象とする症状については感染症部会でもまだ議論中です。そのためそちらを指摘するようにしました。
風邪の5類化は不法行為
感染症法に反する風邪の5類化
感染症法に定められている5類感染症は以下の8つであり,9番目に「前各号に掲げるものと同程度に国民の健康に影響を与えるおそれがあるもの」があり,今回,風邪全般をここに入れようとしています。
どうでしょうか,風邪はこれらと「同程度」でしょうか?!
どう見てもこれらと同程度とするのは無理があります。
感染症法が疾病単位だからと「急性呼吸器感染症(ARI)」という名前でいろんな5類とひとくくりにして一疾病扱いするのは,便法の域を超えて法の趣旨に反する不法行為といってよいと思います。
なお,9番目の「厚生労働省令で定めるもの」は現在は新型コロナを含め40の疾病が指定されています。→ 感染症法施行規則
風邪の感染者は新型コロナの6倍
日本人は平均で年に1.4回風邪を引くという調査(日本リサーチセンター,「風邪に関する調査」,2017)があります。日本人口1億2千万とすると年間患者は1億7千万。新型コロナが最も流行った2022年の年間陽性者が約2700万でした。つまり毎年2022年新型コロナの6倍ほど感染者が出ることになります。
そんな大量の感染者に現実に対応不可能です,医療資源を使う優先順位が明らかにおかしいです。
風邪は寝て治すもの
名著と言われる「かぜ診療マニュアル」という山本舜悟さんという医師による本があります。
この本には以下のように書かれています。
つまり,自然軽快するものは寝ていたほうが早いかも,風邪を診る医師の最大の役割は重大疾患を見逃さないこと,ということです。
それにも関わらず,風邪全般を5類として寝ていた方が早い風邪まで調査の労力を費やしてウイルスを同定したり,特定感染症予防指針を策定して予防に努めたり,ましてやワクチンを作ったりするのは,重大疾患に向ける注意力を削ぐことになり本末転倒です。医療のリソースは,重大疾患の見極めのためにより多くを振り向けるべきです。
風邪の症状を読めない武見厚労大臣
7/26の記者会見で,武見厚労大臣はARIの定義としようとする症状について,原稿をまともに読めませんでした。中でも副鼻腔炎(ふくびくうえん)を「ふくびこうえん」と読み,下気道炎は「下気道」の「炎症」なのに「かき・・どうえん」とおかしなところで区切って読みました(下記リンクの動画の3:10~)。今回は省令すなわち厚生労働大臣が出す命令の改正案です。命令を出す張本人,責任者がその命令の最も核となる部分をまともに読めないなど,十分に検討したと言えるはずはありません。いえ,こんな基本的な用語を読めないのは厚労大臣の資格すらないと言えます。
風邪の5類化という,極めて社会への影響が大きい命令を,その中身もわからず出すことは言語道断です。
特定感染症予防指針を定めるのはさらに不法
ARIサーベイランスのところでも書きましたが,「特定感染症予防指針」は5類の中でも「特に総合的に予防のための対策を推進する必要があるもの」について定めるものです。
上で述べたように5類にすることすらおかしいのに,特定感染症予防指針の対象にするのはとんでもない話です。
現在定められているインフルエンザに関する特定感染症予防指針では,
とされています。第1の目的は「予防接種の推進」です。
武見厚労大臣が「風邪ワクチン検討中」と発言
2024年8月2日の会見で武見厚労大臣は,楊井人文氏の「今後、風邪を予防するためのワクチン開発ということも視野に入れておられるのか」の質問に対し,次のように答えました。
そもそもワクチンというものは,一度罹ると一生または相当の長期間罹らない感染症に対して,擬似的に罹った状態にすることにより罹患を予防しようとするものです。風邪は繰り返し引くものであり,ワクチンで予防しようというのは相当に困難と言えます。今の日本が優先的に取り組むべき課題ではありません。