映画の半分はサウンドである - バックコーラスの歌姫(ディーバ)たち
(この文章には映画の内容に触れる記述が含まれます)
これは、スターの後ろでサポートとして歌い続ける「バックシンガー」という職業を描いた、ドキュメンタリー映画だ。
原題の "20 Feet from Stardom" は、そんな彼らと、ステージ前方でスポットライトを浴びる「スター」を隔てる、20フィート(約6m)という、遠くはないが越える事のできない距離を表している。
そういえば、往年の大ヒット・ミュージカル『コーラスライン』も、このバックシンガーと同じ立場の「バックダンサー」に選ばれようと夢みて、熾烈なオーディションに臨む若者たちを描いていた。(ちなみに『コーラスライン』とは、バックダンサーやシンガーが前に出過ぎないよう舞台上に引かれる、スターと彼らを隔てる"線"のことだ)
生半可な技術や容姿では、無名のまま歌ったり踊ったりする「バック」の仕事すら得られない。そんなアメリカ競争社会の厳しさと同時に、ショービズ界の「層の厚さ」を見せつけるような作品だった。
本作はしかし、たとえそうした競争をくぐり抜けて現場に立てたとしても、所詮 バックは「バック」であり、「スター」とは根本的に違うという現実を、実在の歌手たちの人生を通して描き出す。
あるバックシンガーはこう語る。
そして、たまたまそんなパワーがあって「ソロシンガー」になれたとしても、売れるか売れないかは「運」次第。
本作では、60年代にバックシンガーとしてデビューしたダーレン・ラヴが紹介される。彼女は人気を得てソロシンガーとしてもデビューしたが、プロデューサーに冷遇され、数作を発表しただけで芸能界を去った。
世界的なソロシンガーの一人、スティングはこう語る。
けれどもダーレンは、自分の才能を信じる事をやめなかった。
彼女はその後、再びバックシンガーとして音楽界に復帰。2011年にはついに「ロックの殿堂」入りを果たしている。
本作の題材は「アメリカの音楽業界」という狭い世界だ。だがここには、どんな職業にも共通する「人生の選択」の難しさが描かれている。
脚光は浴びるが先の読めない、華やかだがリスキーな仕事に「選ばれる」か。そんな「スター」の20フィート後ろで働く、気楽だが地道な仕事を「選ぶ」か。
いずれにせよ人は自分の道を選択し、歩き続けていかなければならないのだ。降りる事のできない「人生」というステージの上で。
そんなホロ苦さを、「音楽」という仕事を通じて伝えてくれる作品であった。
週刊ヲノサトル https://note.com/wonosatoru/m/mcbc59cc1bcc3
ヲノサトル 公式サイト https://www.wonosatoru.com
ヲノサトル 作品リンク https://linktr.ee/wonosatoru