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2023年に観た舞台 - 下半期

2023年に観た舞台作品の備忘録、上半期の続きです。敬称略。コメントは批評ではなく個人の感想です



余人会
『恋が落ちる』

7月1日 イズモギャラリー(東京・早稲田)

作:小西耕一 演出:河西裕介
備え付けの冷蔵庫や台所もあって生活感たっぷりの狭小空間が会場なので、すぐ目の前で男女がわちゃわちゃしているのを覗き見る感覚。コメディタッチで始まるが次第にシリアスな展開に…… としんみりしてたら、クライマックスのどんでん返しにまんまと一杯食わされて後味良し。小西耕一演じる「細かい事をぐちぐち言い続けるめんどくさい男」の"めんどくさい感"が、「こういうヤツいるよなー」と苦笑させてくれる。


音楽劇
『ある馬の物語』

7月7日 世田谷パブリックシアター(東京・三軒茶屋)

作/音楽:マルク・ロゾフスキー 上演台本/演出:白井晃
主人公は、人間に「所有」されることに疑問を持ってしまった一匹の馬だ。原作がトルストイだけあって、人が人を所有する奴隷制や、資本家が労働者を搾取する階級社会の矛盾を「馬」に置き換えた寓話。原作は19世紀の小説だが、格差や分断が世界のあちこちで憎悪を巻き起こす2023年の現代にも通じる内容。この音楽劇を力強く牽引するのがサキソフォン・カルテットのライヴ演奏だ。ジプシーブラスのような疾走感から、風のように吹き渡る不穏なノイズまで幅広い表現で、物語に時代や国を超える普遍的な印象を与えていた。


劇団チョコレートケーキ
『ブラウン管より愛をこめて 宇宙人と異邦人』

7月8日 シアタートラム(東京・三軒茶屋)

作:古川健 演出:日澤雄介
1990年代、制作会社の会議室で特撮ヒーロー番組の企画会議が続いている。予算削減のため、特撮番組なのに「特撮なしの回」が作れないかという無茶振りに、右往左往するスタッフやキャストたちをコメディタッチで描いたバックステージ群像劇。モデルになっているのは、実在のTV番組『帰ってきたウルトラマン』第33話、宇宙人を悪と決めつけて迫害する地球人の姿を描いた異色作『怪獣使いと少年』だ。その設定を巧みにヒネって差別感情や群集心理の怖さを浮かび上がらせつつ、一方ではプロフェッショナルがそれぞれの力を合わせて一つの「仕事」をやりとげる充実感を擬似体験させてくれる、エネルギッシュな作品。


『モグラが三千あつまって』

7月15日 新国立劇場 小劇場(東京・初台)

原作:武井博 台本/演出:長塚圭史
小劇場の中央に円形舞台を設らえて四方向の客席から見下ろす趣向に、かつての青山円形劇場を思い出した。原作は児童文学。架空の南の島で、イヌ族・ネコ族・モグラ族の3部族が食料を巡って攻防をくり広げる。「こどもも大人も楽しめるシリーズ」ということで、音楽(阿部海太郎)やダンス(振付:近藤良平)、観客に手拍子などの参加を求める場面など、低年齢層を飽きさせない工夫が随所に見受けられた。


コラボノハナ
『一貫性ガン無視ガール』

7月17日 新宿眼科画廊(東京・新宿)

『南京豆ノハナ』
作/演出:河村慎也(南京豆NAMENAME)
『ポーラノハナ』
作/演出:リリセ(ポーラは嘘をついた)
『マリカノハナ』
作/演出:野花紅葉(モミジノハナ)
群像劇、一人芝居、二人の会話劇という30分の短編3本立て。主宰の野花紅葉が全篇に出演。中でも一人芝居で女子5役を演じわけた『ポーラノハナ』は、ほぼ同年代の女子たちの似ているようで異なるキャラクターを次々に演じ分けていく「イタコ芸」に圧倒された。


ダダルズ
『ダダルズ袋 7月号』

7月14日 イズモギャラリー(東京・早稲田)

作/演出:大石恵美
とにかくヤバい人を見てしまった、と言うほかない強烈な1人芝居2本立て。演劇というよりも、漫談やスタンダップ・コメディのように立って語り続けるだけなのだが、そこにいない人物や場面を言葉だけで想像させる力量は相当なものだ。脳内で起きる異常な連想や錯乱や高揚や絶望を最初から最後までハイテンションで実況中継のようにしゃべくり続けるノンストップの話芸は、ほとんど狂気の領域。ホットな即興のように見えて、終盤のクレージーな盛り上がりから落語のサゲのようにスッと終わらせるクールな演出にうならされた。


テアトロコント vol.62

7月28日 ユーロライブ(東京・渋谷)

作/演出:ぎょねこ、野田慈伸(桃尻犬)、ザ・ギース
6月の桃尻犬があまりに面白かったので、それを目当てに『テアトロコント』という企画を初観覧。「コントは、既存のフォーマットを破壊する短い演劇であり、未来の演劇の実験場である」(渋谷コントセンター綱領)という趣旨の通り、演劇的なコントというかコント的な演劇3本を見ることができた。桃尻犬『別れるときに思う事』は、自動車事故の被害者になった男の話。加害者の女と示談しているうちに、なぜかマルチの商材を売りつけられることになって、でも女に恋してどうしようもなくなって……と二転三転する筋書きに「それでこそ桃尻犬!」と納得。他のお客さんは喜劇と思ってかゲラゲラ笑っていたけど、男のせつない恋心が人生の悲哀を感じさせて、心の中で泣いた。コント……奥が深い。


コンプソンズ #11
『愛について語るときは静かにしてくれ』

8月13日 OFF/OFFシアター(東京・下北沢)

作/演出:金子鈴幸
とにかく最初から最後まで「圧」が強い!キャラが濃い!演技と台詞のアンサンブルが熱い!サブカル系の人名や作品名が連発!下北沢のアパートに暮らすゲーマーやマンガ家の人間模様を描く青春コメディ……と思わせておいて、じつは時代は未来で、AIやリモート技術を駆使した戦争が続く不穏な世界であることが、少しずつわかってくる構成。前半の伏線を要所要所で回収していく脚本が絶妙。


果てとチーク
『くらいところからくるばけものはあかるくてみえない』

8月23日 アトリエ春風舎(東京・小竹向原)

作・演出:升味加耀
1月の『はやくぜんぶおわってしまえ』が面白かったので、再び果てとチークの舞台を鑑賞してみた。舞台はほの暗くホラーな雰囲気で、過去と現在の場面を行き来しながら、閉鎖的なカルト・コミューン、宗教2世と歪んだ母子関係、リンチ殺人や自殺と心霊現象……と陰惨な物語が展開していく。


PARCO劇場50周年
『桜の園』

8月27日 PARCO劇場(東京・渋谷)

作・アントン・チェーホフ 演出:ショーン・ホームズ
いわずとしれた演劇界の超有名戯曲を豪華キャストで上演。前半ほとんど視覚的刺激のない台詞劇で、今回こういう感じの演出なのかと思っていたら、後半がぜんダイナミックでケレン味たっぷりの演出に。主要キャストそれぞれに長台詞の見せ場もあったりして。この後半のために、あえて前半は抑えていたわけね、と納得した。そして今回、注目すべきは照明。上部に存在感のある屋根状のボックスが吊るされた舞台美術で(登場人物の抑圧を象徴しているようでもあった)照明さんは人物を照らすのが難しいだろうと思ったが、横や斜めから巧みに光を当ててクリアしていた。場面内でも細かく光量を変えていて、職人芸を感じた。

写真は https://natalie.mu/stage/gallery/news/535938/2119280 より

ザジ・ズー
『ZAZI・ZOO JAPAN TOUR 2023 FINAL』

9月22日 BUoY(東京・北千住)

作/演出:アガリクスティ・パイソン
多摩美大・演劇舞踊学科の学生が参加しているカンパニーときいて観劇。とにかく若い! 元気だなー! 最初から最後までシュールなイメージの連鎖を、ベテラン稲田誠のコントラバス生演奏が支える。


ぱぷりか
『柔らかく揺れる』

9月23日 こまばアゴラ劇場(東京・駒場)

作/演出:福名理穂
全篇オールキャスト広島弁で、家族きょうだいパートナー間のもどかしくも微妙なやりとりを丁寧に描いた群像劇。昼食をバーガーにするかラーメンにするか?とか、差し出したお金を受け取る受け取らない?とか、細かいディティールの積み重ねが、生活感を浮かび上がらせる。


アル☆カンパニー•ラボ
『POPPY!!!』

9月30日 雑遊(東京・新宿)

作/演出:野田慈伸
夫婦/恋人/もと恋人……6名の男女が織りなす愛とディスコミュニケーションの群像劇。全員のキャラが立ちまくってる絶妙なアンサンブル演技。コントのように笑わせながらも人生のホロ苦さを突いて泣かせる脚本、夢を見せてくれる幕切れ。クライマックスで伏線が回収されて「そうだったのか」とタイトルの意味もわかる。しかし、これで話も終わりかなという段階から突然、予想の斜め上に突き進むスペクタクルな展開が、いかにも野田慈伸(桃尻犬)らしい脚本。


妖精大図鑑
『無関係のジョバンニ』

10月13日 吉祥寺シアター(東京・吉祥寺)

作:飯塚うなぎ 演出/振付:永野百合子
『妖精大図鑑』は多摩美大・演劇舞踊学科の卒業生によるパフォーマンスユニット。たまたま観た『会議は踊る』(2022)がとてもチャーミングで面白かったので、その後もワッチし続けている。今回は開幕早々「無関係のジョバンニ」というタイトルの意味が明かされて始まる。ダンスシーンと細かいスキットが交互に積み重ねられていく、演劇というかバラエティショー的な構成。美術セット無しのむき出し舞台だが、シーンごとに空間を演出する照明が場面転換に貢献していた。


太陽劇団
『金夢島』

10月22日 

作:太陽劇団 演出:アリアーヌ・ムヌーシュキン
前評判からスペクタクルな舞台を想像していたが、会話が中心の「台詞芝居」だった。そのため字幕も多いのだが、投射される位置が舞台上方の高い場所だったため、当方の座席からは字幕とステージ上の演技を同時に見る事ができず。視線の上下移動に疲れて内容に集中できなかったのが残念ではあった。


円盤に乗る派
『幸福な島の夜』

11月3日 こまばアゴラ劇場(東京・駒場)

作/演出:カゲヤマ気象台
この劇団/演出家は初見なので、中腰の異様に不自然な姿勢で不自然な棒読みを応酬し合うスタイルが、本作のテーマである人工知能やクラウドを象徴する所作なのか、常にこんな感じの「芸風」なのか、わからないまま90 分を観終えた。言葉の繰り返しや妙な間、編集したら30分で語れそうなストーリー。しかし後を引く妙な中毒性があるのは確か。また観たい


『海をゆく者』

12月23日 PARCO劇場(東京・渋谷)

作:コナー・マクファーソン 演出:栗山民也
フライヤーを見て「このツラ構えが揃ったら面白くないはずないだろう!」と観に行った。期待通り名優5人のアンサンブルが最高。時間経過を表わす照明も秀逸だった。アイルランドの酒飲みおじさんたちがクリスマスイヴから翌朝にかけてとにかく飲みまくる話なので、観ているだけで喉が渇きまくり、幕間にはグイグイ飲まざるを得なかった!


以上。小空間の一人芝居から大劇場の商業演劇まで、舞台と言ってもホントいろんな公演があるものです。自らも舞台芸術に関わっている立場としては、一つの公演にどれほど時間や労力がかかるか骨身にしみて知っているので、どの作品のスタッフやキャストにも「皆さん、これだけの"虚構"をよく作りあげました!お疲れ様です!」と激励の拍手を送りたい。

さて今年は、どんな舞台が見られるかな。

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