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もぐり

大学では「もぐり」という言葉を聞くことがある。

履修登録していない講義を学生が自主的に聴講すること、あるいは学生以外の一般人が学外からキャンパスに入り込んで勝手に聴講することを言う。

前者についての判断は大学にもよるだろうが、後者について正論を言うならば、厳しい入試を経て正規に入学し、金銭を納入している学生に対する公平性の観点から、フリーライド(ただ乗り)の聴講を認めるわけにはいかないだろう。

とはいえ、そういう杓子定規な話じゃなく、あくまで個人的な本音としては。

指導要領があるわけでもなく何を教えろと言われているわけでもないのに、1コマ90分しゃべり倒す教員なんて仕事をやってるのは、その内容が面白くてタメになると信じているからだ。学生であろうとなかろうと、聞きたい人がいるならぜひ聞いてほしい。

だからといって簡単に公開できないのは、講義内でふんだんに紹介している映像やら音楽やらの資料が、法律上ややこしい事になるからだ。著作権法35条には、こう書かれている。

学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。

要するに、正規の学生が授業を受ける場合に限り、他人の著作物を無断で利用することが、特別に許可されると言っているわけだ。そこに非正規の「もぐり」が混じると、話はややこしいことになる。

したがって、公式見解を問われれば「もぐり? そんなもの認めるわけにはいきません」と否定せざるをえない。

ただし、個人的に「じゃあ、教室では "もぐり" にどう対処しているんですか?」と訊かれたなら「 さあ? 受講生は大勢いますし、いちいち探し出して排除する事なんかできませんなあ……」と答えるだろう。

たまに「授業が面白そうだから、もぐりに行っていいですか?」と尋ねられることがあるが、そういうわけで、当方には訊かないでいただきたい。

世の中には、あえて訊かない方が良いこともあるのです。


(2021. 10. 28)

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