映画 『サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへ』
映画「サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへ」を観た。
100年以上フィルムで撮影されてきた「映画」というアナログな芸術は、今やどんどんデジタル・シネマにとってかわられている。
それでは、アナログとデジタルにはそれぞれどんな特色があるのか? それぞれの長所短所はどんなものなのか? 何よりも、映画はこれからどういう方法に進むのか? ── といった内容を、著名な業界人へのインタビューと、様々な映画からの引用によって浮き彫りにしていくのが本作の内容だ。
タイトルの「サイド・バイ・サイド("並べて")」という言葉は、ポストプロダクション(撮影後の素材を加工するプロセス)作業の場面に登場する。デジタル映像の色味をフィルムで撮影したショットに合わせるため、エンジニアはデスクに二つのディスプレイを「並べて」比較しながら色調整を進めるのだ。
同時に、本作の構成自体が、まさにサイド・バイ・サイド。フィルムで撮られる映画とデジタルシネマの両方の長所短所を、逐一「並べて」紹介していくというものだ。
「制作管理」「演出/監督」「俳優/演技」「撮影監督/照明」「編集」「ポストプロダクション」「流通」「保存」……と、映画に関わる各段階を追っていく丁寧な構成。したがって本作を観れば、現代の映画製作プロセスをひととおり疑似体験することができる。
それにしても、この作品が今の時代に制作されたのは、とても重要だ。なぜなら、あとほんの少し年月がたてば、ほとんどの映画がフルデジタル化されているだろうからだ。
本作には「フィルムの色味や空間性は、デジタルでは表現できない」と断言する監督も出てくる。だが作家個人がどんなこだわりを持とうと、媒体としての「フィルム」が消えていくのは時間の問題と言わざるをえない。
今という「過渡期」だからこそ、フィルム時代の記憶を持ったままデジタルシネマに取り組み始めている映画人たちが、双方の特徴を比較して語れるわけだ。
そう考えると実はこの映画、映画や映像の関係者にのみ通用するマニアックで専門的な話としてではなく、「テクノロジーの過渡期に直面した時、表現者の感受性や制作方法はどう変化するか」という普遍的なテーマを扱ったドキュメンタリーとして、様々な事を考えさせてくれる。
映画だけでなくTV、ゲーム、書籍、音楽… あらゆる分野で、制作から流通までの全プロセスが急速にデジタル化している現在。必要なのは過去の経験や技術を、ノスタルジーとしてではなく先に進むための資産として生かしつつ、新しい表現に挑んでいく積極的な姿勢だろう。様々な分野のクリエイターにとって、本作はそのための大きなヒントになるはずだ。
さて、ぼく自身はこの映画を観ながら「これって、音楽制作の場合も…?」と強烈な既視感を味わい続けていた。映画における、フィルムからデジタルシネマへの転換。それは1980年代末から音楽の世界で始まった、テープ録音からハードディスク録音への劇的な変化と、実によく似ているからだ。
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