小説『ワンダリングノート・ファンタジー』(47)食い違って
Chapter47
「それで、さっきの続きなんだけど⋯⋯君は、トムよね?」
レナは鏡の通路から漏れる光を背中に受け、彼に問いかけた。
「そう、僕の名前はトムだよ。お姉ちゃんの名前は、何て言うの?」
トムの背後の空間は、ここに来た時と同じで無限に広がる暗黒が続くようだった。不思議にも、彼の身体からは淡い光が放たれていた。
「私はレナ。レナ・テノールよ。君はトム・ホーソーンで間違いないわよね?」
「うん。それで合ってると思う。そうか、お姉ちゃんも、レナっていうんだ」
「え?」
「僕の幼馴染にも、レナっていう女の子がいたんだけど⋯⋯池で溺れちゃったんだ」
レナはダンと遭遇した時の、池のほとりで泣き崩れていた自分自身の白昼夢のような映像を思い出した。
──きんいろのひかりが、レナを助けてくれたんだよ──
あの場面では、彼女自身が助けられた設定になっていた。「設定」──レナはまたもやあの男の言葉を思い出し、トムと自分との間に、何かとんでもなく大きな事態が絡んでいるのではないかと緊張し始めた。
「え? ちょっと待って! その女の子は助かったのよね!? 金色の光がその池の中から現れて──」
「え? きんいろの光は合ってるけど、助かったのは僕だよ? お姉ちゃん、その場所にいたの? レナが持っていたぬいぐるみを池に落としちゃったから、僕がそれを取ろうとしたんだ。それで僕はよろけて池に落ちちゃって、そしたらレナが僕を助けようとして、レナも一緒に溺れちゃったんだ」
──私がぬいぐるみを落としちゃったから、トムがそれを拾おうとして──
レナはあの場所での、ワンピースの少女の言葉が聞こえた気がした。「池に落とした、拾おうとした、一緒に溺れた」までは合点がいく。しかし、その後の肝心な「結果」が矛盾していると感じた。
「君⋯⋯トムが助かって⋯⋯その女の子は溺れて⋯⋯」
並行世界が存在するならば、全てに納得がいくとレナは思った。彼女の世界では、自分が助かった。一方でこの子供のトムの世界では、彼が助かったのだ。どちらの世界も存在し、その中で時間が流れている。そして、そんな不思議な現象の源は、あの「金色の斧」の光によって引き起こされたものだと、レナは無理やり理解せざるを得なかった。
「お姉ちゃんって、もしかして⋯⋯溺れちゃったレナなの!?」
「君ってもしかして、溺れちゃったトム!?」
二人は同時に言葉を発した。どちらもこの状況において共通の疑念がよぎったのだった。