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『内に秘めた想いを形にするためには、歩みを止めないこと』株式会社kru khmer botanical代表 篠田ちひろさん

新卒内定を辞退し、大学卒業して間もなく、フェアトレード先進国イギリスに語学留学しながらインターン。その後、カンボジアに渡り、現地の持続的な地域の成長と、女性の雇用問題解決をミッションに事業を展開されている株式会社kru khmer botanical代表 篠田ちひろさん。

起業と同時に(2009年)伝統医療とハーブを使用したスパ製品ブランドの立ち上げ。2015年には伝統医療の知恵とカンボジアの自然、日本流のサービスを融合させたスパを開業。現地の社会課題を解決するために最適な手段を考え抜き、最前線でカンボジアの可能性を発掘されてきた方です。

常にご自身と対話し、柔らかい笑顔と溢れ返るほどの熱い想いで周囲を巻き込み、有言実行されてきた篠田さんのライフストーリーに迫りました。

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取材日:2021年9月20日(月)

篠田ちひろさん(写真右下):1984年山口県生まれ。青山学院大学経営学部卒業。20歳の時にバックパッカー旅行でカンボジアを訪れ、大学時代は学生団体で学校建設などの途上国支援を経験。1度日本で就職活動をし内定をもらうも、もやもやした気持ちから辞退を決意。ボランティア時代の経験から、寄付に頼らない、安定した仕事と収入を作ることで地域の持続的な発展につながるモデルを作りたいと思い、イギリスで8カ月間フェアトレードを学んだ後、2009年にkru khmer botanicalを起業。カンボジアの持続的な地域の成長と、女性の雇用問題解決をミッションに、2009年に現地の伝統文化とハーブを使用したスパ製品のブランドを立ち上げる。その後2015年伝統医療の知恵とカンボジアの自然、日本流のサービスを融合させたスパ、スパクメールを開業。2012年9月内閣官房国家戦略担当、古川大臣より「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」プロジェクトの表彰を受ける。2019年11月に、第1子を出産。コロナを機に、2020年4月にタイ経由で日本に帰国し、5月から地方都市で夫との生活を始める。

『世の中をもっと知りたいという気持ちから拓けた進路』

WI大山:青山学院大学経営学部に進路を決めた理由を教えて下さい。また、大学卒業後、新卒で起業をされていますが、学生時代から「いつかは起業しよう」という想いを抱かれていたのでしょうか。

篠田さん:
いくつかの本に触発された高校生の頃、「世界を知りたい、世の中をもっと分かるようになりたい」と漠然と思っていたのですが、ニュースで言っていることが理解できなかったんです。でもその時、「おそらく世の中はお金で回っているだろうから、経済や経営を学んだら分かるようになるかも」と思い、経済や経営、商学部を志望するようになりました。
青学は第1志望ではなかったのですが、マクロやミクロと難しそうな経済に対して、経営は実学っぽくて自分の性格に合いそうだなと。進路選択時は会社経営を視野に入れておらず、特に強い想いもなく、なんとなくでしたね。

起業を決意とまでは行かないのですが、関心を持ち始めたのは大学3年の頃。色々なアイデアを0から1に形作ることの楽しさに気付き、仕事でいうと起業になるとは思っていたのですが、「途上国で起業する」とまでは考えていませんでした。大学3年次に、ヨーロッパのある映画に触発されて、ボランティア団体のメンバーとシェアハウスに住んでいました。今でこそ流行って市民権を得ているシェアハウスですが、当時はあまりなかったので、シェアハウスを斡旋する会社を創業したらいいんじゃないかと考えたことがありました。

WI大山:いくつか触発されたと仰っていた本は、どんな系統なのか気になりました!

篠田さん:世界を旅して本を出版していたアメリカ人の有名な投資家ジム・ロジャーズが、歴史や地理に長けていて。彼がアルゼンチンから資産撤退した直後に、デフォルトが起きたんです。歴史や経済状況の知識に長けていると、ここまで未来を予測して判断できるようになるのだと感動して。私自身も、色々な物事を見て自分で考えられる知識量と視野の広さが欲しいと思うようになりました。
もう1冊、20年前に1大ブームと起こしたロバート・キヨサキの「金持ち父さん・貧乏父さん」を読み、自分の人生を自分でコントロールしたいと強い想いが芽生えました。

WI大山:中高時代に、ニュースや投資家の本はなかなか手に取らないと思うのですが(笑)。本屋さんか学校での教育か、何か特別なきっかけがあったのでしょうか。

篠田さん:
小さい頃から、子ども新聞を購読していました。今お話させて頂いた2冊に出会った明確なきっかけを思い出せないのですが…。当時ロバート・キヨサキの本は当時のベストセラーだったので、親が持っていたのか、経済系に関心が向いて手に取ったのかもしれません。

大きな変化としては、高校1年次に政治経済の先生と出会ったこと。教科書に書いていることに加えて、彼自身の生々しい経験談や社会を斜めに見て語る話が面白くて(笑)。その姿に感化されて、世の中に関心が向き、新聞を読むようになりました。

WI磯崎:大学時代は、バックパッカー旅行で20か国以上訪れたとのご経歴を拝見しました。そのタイミングでカンボジア、ベトナムに興味が湧いたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

篠田さん:
休みごとにどこか巡っていたので、各地に対して思い入れが強かったわけではなかったのですが、テレビで見た世界遺産のアンコールワットを見てみたいという一心でした。ベトナムは何だかごちゃごちゃしていて、楽しそうだなと興味が湧きました。

私は計画を立てるとストレスが溜まるタイプなので、敢えて何も計画せず、海外を飛び回っていました。一方でやりたかったものの、できなかったことがいくつかあり、そのうちの1つがマレーの横断。タイの北から列車で下ってシンガポールまで横断したかったのですが、イラク戦争中で叶いませんでした。

『起業を視野に入れながらの就活』

猪野:大学時代から多方面への興味関心を強く持ち、行動されていた篠田さんは、どのような就職活動をされていたのでしょうか。私は総合政策学部に所属している2年生で、興味の幅を広げるには相応しい環境なのですが、一方でどうやって絞っていったらいいのだろうかと迷っています。

篠田さん:ベンチャー企業で働いている社会人1年目のお2人も取材に参加下さっていますが、私も創業経営者を身近に感じることができる数百人規模の企業を見ていました。その頃は起業が視野にあったので、経営で避けられない営業職を志望していました。中でも、お客様の要望や課題を聞いてアレンジしながら販売するコンサルティング営業職の選考を受けていました。

WI横塚:内定を辞退し、卒業後間もなく、フェアトレード先進国イギリスで8カ月間の語学留学とインターン。社会人1年目の後半に、カンボジアで起業された篠田さんは、自分を信じて決断する力が強い印象を受けました。

篠田さん:
今となってはあまりオススメしないのですが(笑)。就職した会社で得た経験を活かして何かやりたいことをやろうと思っていたのですが、私の性格上、その時やりたいと思ったことは止められず、じっとしていられない性格で。「発達途上国に行って、こんなことしてみたい」という漠然としたアイデアを抱えながら、目の前の仕事と直接関連がない日本で就職することが耐えられなかった。当時の私は、内定を断るデメリットは一切考えていませんでした。少しでも夢に向かってできることを実行したいという一心だったというのが正直なところです。

ある程度成長したらあえて退路を絶つのは必要だと思いますが、どんな決断をする際にもどうしてもリスクは伴います。リスクばかり考えるのではなく、時には思い切って行動してみたら良い面もあるのだと、勉強になりました。はじめに「オススメしない」って言っておきながら、なんですが(笑)。

『秩序のなさと、少し先すら予測不可能な雰囲気に惹かれたカンボジア』

WI磯崎:篠田さんの情熱とその気持ちと連動した行動力に憧れます!大学時代に多くの国を旅した篠田さんが、カンボジアで起業しようと思った理由を伺いたいです。

篠田さん:
起業当初(2009年)は、カンボジアにおける1人当たりのGDPが今の4分の1で、非常に貧しい印象を受けました。ただ笑顔を絶やさない現地の方の姿が、私の目には幸せそうに映ったんです。日本は豊かな国ではあるものの、「果たして幸せなのだろうか」「本当の幸せとはなんだろうか」と考えさせられました。「どうしてみんな幸せそうなんだろう」と不思議で。

日本は何が起こるかある程度の予測できますが、当時のカンボジアは秩序がなかった。何が起こるか分からない面白さと、不思議な感じに惹かれていました。カンボジアの他にも途上国を訪れたのですが、特にカンボジアは経済的に貧しく、困っている方がいたことに加えて、「もっと知りたい!」と思わせてくれる国だと感じていました。

西田:コロナ前にカンボジアに渡航した際、マーケットでクルクメールボタニカルの商品を購入したことがあり、私自身ブランドのファンなので、感動しながらお話を伺っていました。
起業当初は、目の前にある社会課題を解決することと、黒字化させるまでのスピード、どちらを重要視されていましたか。

篠田さん:
ありがとうございます。
最初は課題解決を考えていたのですが、お金がなくなってしまうと事業が潰れてしまうので、スピードに重きを置いていました。起業後3年間はとにかく貧しく、色々なことが上手くいきませんでした。当初は、助成金すら取っておらず。最大の課題は、継続させるために黒字化すること。儲けられないと潰れる、売り上げが立たないと給料が払えない状態だったので、いかに売り上げを立てるか必死でした。

西田:どのように事業を軌道にのせていかれたのでしょうか。

篠田さん:まずは売るものを作るために、商品開発に着手し、その後事業コンセプトを決めました。当時開発していた2つの商品が売れないわけではない場合、商品を増やしていく必要がありました。要するに、ヒット商品の開発を行っていました。

あの頃は、ちゃんとした商品を作るための生産と、売り方に悩んでいるつもりだったんです。でもある方から、「どっちがより問題だと思う?」と問われて。私は売れないことを言い訳にして、生産に問題があると思っていたのですが、営業自体に問題があった。売れないと何も改善ができないと学びましたね。

西田:起業当初と今を比較すると、どんな変化がありましたか。

篠田さん:今はある程度の失敗を積み重ねて分かるようになりましたが、起業当初は何も分かっていなかった。経営学部を卒業したので、言葉は知っていたものの、経営は実学。実際に試行錯誤しながら、実行しないと分からないことばかりでした。

マーケティングの定番フレームワーク4P(プライス・プロダクト・プレイス・プロモーション)のうち、商品開発のプロダクトとプライスは一緒に考えていたのですが、プロモーションとプレイスの重要性を理解できておらず、考えきれていませんでした。リスクはあったのですが、しっかりしたプレイスである直営店を作り、プロモーション施策を打ちやすくなりました。

『経営者として大切にしているバランス感覚』

WI磯崎:篠田さんが、経営者として1番大事にされていることを教えて頂きたいです。

篠田さん:バランス感覚ですね。バリュードリブンがしっくりきます。例えば、障がい者の雇用創出を目的に事業を立ち上げたとします。経済的合理性を考えると、少ない給料で高いパフォーマンスを発揮して下さる方の雇用が望ましい。そうであっても障がい者を雇用するのがバリュードリブン。どうして会社を立ち上げたのか、想いを大切にしつつ、事業継続のためにきちんと利益を出す。どちらかに偏ってしまうと会社は続かないので、バランスを重視しています。

猪野:経営者として1番大事にしていることを伺わせて頂いたのですが、経営者としてのロールモデルは、ある記事で言及されていたThe Body Shop創業者だと思いました。その方に憧れるようになったきっかけはあるのでしょうか。また、どういった点に憧れていますか。

篠田さん:The Body Shop自体は知っていたのですが、どのような会社かということは知らず。大学4年生の頃、The Body Shop創業者アニータ・ロディックの『ザ・ボディショップ アニータ・ロディック THE BODY SHOP (世界を変えた6人の企業家)』に大学の購買で偶然出会い、非常に感動しました。それこそバランスを意識した経営だったんです。

経済的にもグローバルな企業として大きな会社として一代で築き上げた彼女は、起業活動を通じて自身が信じていることを世間に発信していました。1980年代は今と価値観が異なり、ジェンダーという言葉もほぼ存在しなかった時代。ジェンダーの差や気候変動など、今でいうSDGsをビジネスの中で啓蒙していました。1人の活動家として、国連の前でハンガーストライキも行っていて。私は彼女と同じことはできませんが、起業活動を通じてできることは非常に沢山あるんです。この本に出会い、「自分がやりたいことは、まさしくこれだ!」と言語化・視覚化するきっかけをくれたのが、アニータ・ロディックの活動でした。

『原動力は、好奇心、使命感、負けず嫌い』

西田:迷わず潔くどこまでも突き進んでいく印象を抱いたのですが、篠田さんの原動力は、どこから来ているのでしょうか。

篠田さん:
1番強いのは、自分の中にある好奇心。使命感よりも好奇心が勝っていると思います。最初の1歩は、「これをやりたい」「これをやったら面白そう」「あれ欲しい」などの好奇心。ただ動き始めると失敗もするし、逃げたくなる時もあるのですが、逃げ出さないように私を起こしてくれるのが、使命感。負けそうになった時に、負けず嫌いさが出てくる。「好奇心、使命感、負けず嫌い」の3つが、私の原動力になっていますね。

WI磯崎:3つの原動力は、元々の性格なのでしょうか。もしくは活動していく中で、後から形成されたものなのでしょうか。どちらが強いですか。

篠田さん:前者の性格が強いと思います。大人になり、それらの性格を上手く利用するようにしています。最初の1歩は好奇心で動くので、好奇心を刺激するようなプラス情報を自分の中に取り入れて、自分自身の行動を促しています。行動し始めたら、責任感や使命感に伴って自分を動かしてくれる。3つ目の負けず嫌いさは、自身の行動を認めてもらえないと悔しくなって、普通の精神状態では決断できないことを思いっきりやる。タイミングに合わせて負けず嫌いさも取り入れ、行動に移すようにしています。

『5年以内に「目が見えない方が働くオシャレなスパを作る」夢を実現したい』

WI大山:今日の取材で語って下さった言葉の節々から、身近な情報源から社会課題に触れ、鋭くも的確に捉えていらっしゃる印象を受けました。篠田さん流、社会を見る目の鍛え方を教えて下さい(笑)。

篠田さん:
初めて受けた質問で意識したことがなく、むしろ情報収集力が弱いなと思っているのですが(笑)。気になるトピックがあれば、どんなことでもいいからそれに基づいて行動に移すようにしています。

昨年5月から久しぶりに日本で暮らしている中で、在留外国人と子どもの貧困が気になっています。外国人が多い都市に住んでいるのですが、友達がおらず情報を手に入れられないので、市報によく目を通していて。そこで日本語ボランティア養成講座があると知って参加したところ、浜松市における在留外国人の情報が入ってくるようになりました。ボランティアを続けるとその先がさらに見えてくると思うのですが、最初の一歩は踏み出せたと思っています。

子どもの貧困問題であれば、子ども食堂に参加して運営者にお話を伺うことで、どんな課題を解決しなければならないのか見えてくる。そんなふうに得た情報から広げて、その時々起こすべきアクションを考えています。今日取材して下さった皆さんは、私みたいに生き急いでいるタイプだから、もっとのんびり生きていいよ(笑)。

WI横塚:心の内にある想いを適切なタイミングで形にされてきた篠田さんは、クルクメールの未来をどのように描いていらっしゃいますか。

篠田さん:元々スパクメールというスパを運営していたのですが、今後は目が見えない方が働くオシャレなスパを作り、フランチャイズ化して広げていきたいと思っています。これは短期的な夢で、直近5年位で実現したいです。

以前、クルクメールで雇用していた耳が聞こえない方は、比較的仕事を見つけやすいのですが、目が見えない方は仕事を探しにくい。店内が綺麗で、途上国の目が見えない方が働けるプロフェッショナルな場所を作りたいです。

WI大山:行動したいと思っても、想いを行動にどう落とし込んだらいいのか分からないという声を耳にすることがあります。「自分を生かす選択の描き方」に迷っている高校生、大学生、社会人初期のウーマンズ読者に向けて、メッセージを頂けたら嬉しいです。

篠田さん:今日の取材でウーマンズのみなさんが勇気を出して依頼を下さったように、迷っているんだったら小さな一歩でもいいから動いてみてほしいです。よく言われている「自分を変えるには、会う人、時間の使い方を変えること」。その通りだなと思います。

WI大山:理想を現実に転換してこられた篠田さんの思考に触れさせて頂ける、贅沢な時間をありがとうございました!

(企画:磯崎颯恵|取材・書き起こし:猪野陽菜、磯崎颯恵、大山友理、西田千尋、横塚奈保子|編集:大山友理)


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