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[移植]読書録『ウォンバットの撫で方』第3回 モスボール,そしてダイアリー・オブ・ア・ウォンバットの誕生(1)
livedoor Blog うぉんばっとのぽっけより移植
2018年02月09日
G'day! 中の人二号=ユウトです。
可愛くて気になる黄色いウォンバット本 How to Scratch a Wombat を実際に読んでいく連載第3回は,第一章 "Writing with Wombats" の続きを読んでいきます。
ニンジン大好きモスボールさん
スマッジとの出会い以来,徐々にウォンバット・エキスパートになっていった著者のジャッキー・フレンチさん。敷地から野生動物を締め出すことなく共存していく経験とコツを蓄積し,果樹園の経営も軌道に乗せました。
そんなとき,ウォンバット孤児のケアも担っていた彼女のもとに「モスボール」が託されます。モスボールはキャンベラで犬に襲撃され深手を負ったウォンバットで,たくましい生命力で回復を見せたものの,毛並みが虫食い(moth-eaten)のような継ぎはぎ模様になってしまったことから「モスボール」と名付けられました。(英和辞典で mothball を調べると衣類の虫食いを防ぐ防虫剤とのこと。)
このチャプターの読みどころの一つは,モスボールを車に乗せ,キャンベラからアラルーアンまで連れて帰るくだりです(pp. 7―8)。元のケアテイカーに惜しまれつつモスボールを引き取る際,「ニンジンが大好物なんですよ」と言って何本かのニンジンを毛布と一緒に渡されます。
モスボールとニンジンの入ったケージを後部座席に置いて車を出したものの,キャンベラ郊外まで走らせたかどうかのあたりで,バリバリとニンジンを食べる音が聞こえなくなってしまいます。代わりに聞こえてきたのは「フン,フン,フン,フン……!」と次のニンジンを要求するモスボールの鼻息。おかわりはないのだと分からせようとしても,ケージを揺さぶってケージごと座席から転がり落ちたり,プラスチック製の枠をかじって破ろうとしたりと,まったく落ち着く気配はありません。
ジャッキーは計算します。ケージの枠を1本かじり切るのに10分かかるとしたら,6本かじり切って車内に這い出てくるまで60分。アラルーアンの自宅までは急いでも80分。ということは,怒れるモスボールが車内に飛び出て,座席からハンドルから運転手までかじり倒す時間が丸20分も残ることに!観念したジャッキーは,途中の町で車を停めてたっぷりニンジンを買い込み,ケージに放り込みます。その場面の印象的な原文を引用します(後段は拙訳)。
Crunch. Crunch. Crunch. It was a happy sound, the sound of a wombat who is training her human to provide all the carrots she wants. バリバリバリ……幸せそうな音です。それは,要求した分量のニンジンは不足なく差し出すように,と人間をしつけるウォンバットの音でした。
次回も引き続き,モスボールの話を読んでいきたいと思います。次回,作家デビューのきっかけとなったスマッジとはまた違った意味で,モスボールが特別なウォンバットである理由が明らかにされます。それでは!