マドメド「アリス心中」MV考察
1.登場人物
①主人公
なつき(仮名)
・会社員
・上司からの激しいパワハラを受けている
・高校生の頃に親友を自殺で失っている
・親友を救えなかった心的外傷に苦しんでいる
・精神科に通院し睡眠薬等を服薬中(注1)
・SNSで文筆活動を行っている
・遺作「アリス心中」を投稿後、飛び降り自殺
②主人公の親友
はなね (注2)
・なつきが引っ越した後、酷いいじめに遭う
・いじめを苦に在学中に飛び降り自殺
・2010年に16歳で短い生涯を終える(注3)
・注1:青い錠剤=睡眠薬を指す(ハルシオン、サイレースなど)。睡眠薬は他人に水などに溶かされて知らない間に飲まされる事件を防ぐため、水に溶ける際に青色になる加工がされたものがある。
・注2:自殺する直前になつきに送ったメールの「Fromはなねん」から名前を推測
→ はなね役を演じた「一色花音」さんから名前は「はなね」で確定
・注3:同じくメールに2010年の記載があるのと新聞記事に(16)との年齢記載がある。ここから推測するとなつきの自殺が2024年だとするとなつきの享年は29歳〜31歳となる
2.実際に起きたこと(時系列)
2009-10年
・那宮市の高校になつきとはなねが通い始める(注4)
・家庭の事情でなつきが引っ越し
・1人になったはなねへの激しいいじめが始まる
2010年
・はなねが高校の屋上から飛び降り自殺
・死の直前になつきにメール
・なつきは現場に急行するが間に合わず
2024年
・会社で上司のパワハラに苦しむなつき
・自分自信が自殺を意識し始める
・遺稿となる「アリス心中」を書き終える
・はなねが飛び降りた同じ場所から飛び降り自殺
注4:地名は新聞より。ちなみに高校時代に2人が使っていたバス停「一丁田台」からロケ地は茨城県土浦市と思われる。
3.なつきの遺稿「アリス心中」とは?
・自殺した全ての人を肯定する詩
・これから自殺する人を肯定する詩
・はなねに向けた贖罪の詩で鎮魂詩
・なつき自身の遺書でもある
※アリス=「自殺をするほど精神が傷つき病んでしまった女性」を指すと想定
4.「不思議の国のアリス」との関係性
・「不思議の国のアリス」ではアリスは最後に夢から覚めて不思議の国から抜け出し現実に戻ります
・「アリス心中」では我々が生きている辛く苦しい「クソったれな世界」=「現世」が不思議の国とされています
・つまり自殺して死ぬことは「不思議の国を去ること」=「目覚めること」だとされています(なので自殺することで夢から覚めて本当の世界に戻れる)
・「自殺した人は孤独ではない、1人ではない」とされており死後の世界で死んだ者同士が再会できるとしています(来世の存在も肯定)
・マドメド各メンバーの衣装や設定も「不思議の国のアリス」のキャラクターが元になっているようですがMV内での配役との関連は不明
5.拳銃や武器が意味するもの
・「自殺こそが復讐」とされており、生きたまま恨んだ相手を殺すのではなく「死んでやるのが1番の報復」であるとされています
・MVには銃が出てきますが、実際の発砲シーンはなく「銃で直接他人を殺す復讐」は意図されておらず、「自殺することが武器である」メタファーとして拳銃が使われていると思われる
・MV後半に宝箱から拳銃が出てくるシーンは「自殺が正当な武器である(はなにとっても正当な武器であった)こと」を肯定する表現と思われる
6.薬物の意味
・「不思議の国のアリス」もドラッグ問題へのメッセージが裏主題と言われています(劇中でキノコや薬で幻覚を見たり意識錯乱する場面が多く記されている)
・「アリス心中」の「アリス」には「薬を飲むくらい精神を病んでしまった人たち」の意味があるように思えます
・MVでもなつきの睡眠薬OD示唆シーンや、後半にメンバー全員とはなねがODして錯乱パーティをしているシーンがあります
・薬物による「クソったれな世界」からの逃避の肯定、および飛び降り自殺の直前にODして恐怖を克服すること、楽になることが示唆されているように思えます
・MV前半と歌詞に出てくる「魔法のステッキ」も「持つとふわふわくるくるになり復讐(自殺)をやりやすくするもの」という意味が持たされているので、薬物的なものを指しているのかも知れません
7.「過去のはなね」と「現在のはなね」
・MVは大きく分けて前編、後編に分けることができて、登場するはなねが「過去のはなね」か「現在のはなね」かで2つに分けることができる
・それぞれ「過去のいじめられていたはなね」「死して尚、現在も不思議の国を彷徨い続けるはなね(の魂)」である
・マドメドメンバーは「アリス心中」の文章の言霊の擬人化であるので、時間を超越して両方に存在している
8.MV前半の考察
-なつきの想い〜「アリス心中」完成まで
・MV前半は「アリス心中」に綴られた言葉たち(マドメドメンバー)がはなねを救う描写で、おそらく「なつきがはなねのことを想いながらアリス心中を書き上げる過程の気持ち」を映像化したものである
・マドメドメンバーが語りかける部分、アニメーションになる部分の歌詞は、「アリス心中」の言葉たちが「いじめられて辛い想いをして自殺した過去のはなね」を肯定して救おうとしているように思える
・なつきには「こんなに酷く苦しい思いをしていたはなねに、当時は何もしてあげられなかった、助けることができなかった罪悪感」があり、それを晴らす贖罪の意味も前半パートにはある気がする
・MVに登場するマドメドメンバーはなつきの遺稿である「アリス心中」に綴られた言葉(言霊)そのものの擬人化であり、その言霊たちの中心に那月邪夢がいるのは「作者であるなつき自身」との一人二役として自然である
9.MV後半の考察
-はなねの魂の救済
・後半はなつきが「アリス心中」を完成させて、NoteやXに投稿が終わった所から始まる「リアルな時間軸の物語」である
・銃を発見する〜以降の場面で出てくる「はなね」は、「死んだはなねの霊魂がいまだに成仏できずに高校の校舎を彷徨っている姿」を指している
・はなねは未だに不思議の国から抜け出せておらず、自分の死を認知することも受け入れることもできていない
・そんなはなねの魂にも「アリス心中」の作品、言霊が届き、彼女は「拳銃」を発見する
・拳銃とは、アリス心中で完全肯定される「復讐のための正当な武器」「正義」である「自殺を意味するメタファー」である
・つまり、なつきが投稿した「アリス心中」の言霊が、校舎を彷徨う「はなねの魂」にも届いたことを「拳銃」のシーンは示唆している
・拳銃やライフルを持って武装したマドメドメンバーや少女たちは、「アリス心中」の言霊に触れた「過去に自殺した少女たちの魂」である
・那月邪夢が中心に立って旗を持ち、武装した少女たちを「率いている」のは、なつきが「アリス心中の作者」であり「魂の解放者」本人であるから、ここでも非常に自然である
・マドメドメンバーと星型の薬物でODし錯乱するシーンは、はなねと「アリス心中」の言霊たちの出会いと交わりを意味し、ここで彼女は「アリス心中」からのメッセージを深く理解する
・薬物と酒でメンバーとはなねが楽しく騒ぐ様子は、「アリス心中」の言霊がはなの精神を「癒す過程の表現」であるように思える
・すなわち拳銃を手にした所から始まる一連のシーンは「はなねの魂が癒されて、もうすぐ不思議の国から脱出できる(成仏できる)」ことを示唆している
・マドメドメンバーとの錯乱パーティから目覚めたはなねの目の前には「白い薔薇」があり、この時点ではなねは「自分の死を初めて自覚した」のだと思う(花を見て我に返るような、少し驚く表情をしている)
・ここでようやくはなねは、自分の死、なつきのこと、全てを思い出し、正気に戻る(高校生時代の2人の映像がフラッシュバックされるのはその象徴)
・はなねは死して尚、10年以上地縛霊のようにずっと彷徨っていたことになる
10.最後のシーン〜なつきの自殺
・なつきが高校の校舎の屋上に到着した時はもう夜明け前だったので、夜通しかなりの距離を歩いてここまで来たものと想像できる
・なつきは、自分自身が生きるのが辛いこともあったが、死に際して「アリス心中」の文章をはなねに捧げて、最期もはなねを想い、同じ場所で死にたかったんだろう
・そこに校舎を彷徨っていたはなねの魂がやってきて、彼女はすでにアリス心中の言霊によって救われた状態で、あとは成仏するだけだった
・白い一輪の薔薇の横に寄り添うような赤い薔薇が描かれているが、これはなつき(赤薔薇)とはなね(白薔薇)の再会を示唆する
・なつき「ごめん、遅くなっちゃった」
はなね「ありがとう」
・心が救われた2人のアリスは「不思議の国」から抜け出して、また一緒になれたと、あの頃の2人のように仲良く笑顔になれたと信じたい
終
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