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作曲における多調(複調)の使い方に関する考察

(筆者:かむい)


はじめに

みなさん、多調はご存知でしょうか。「2つ以上の調が重なった音楽」というのが一番わかりやすい表現でしょう。この多調にもさまざまな種類があるため、いざ作曲で使おうとしても「どのよう」「どう効果的に使うか」 が悩ましいものとなってくると思います。
この記事ではなるべく有名な音楽を参考にしながら、多調の使い方についてゆるーく考察していきます!

1.ボレロ(ラヴェル)

多調を用いた最も有名な音楽がこの曲ではないだろうか。
ボレロの147小説目からは、ホルン・チェレスタがC dur、ピッコロがG durとE durで旋律が並行音程で重ねられている。このような多調をこの記事では「並行多調」と呼ぶことにしよう。
さて、この曲における並行多調だが、実はパイプオルガンのサウンドを再現しているのだ。パイプオルガンの仕組みについての説明は省くが、要は倍音をそれぞれの楽器が担っているということだ。まずホルンが基音(C dur)となり、第2倍音をチェレスタ(C dur)、第3倍音をピッコロ(G dur)、第4倍音をチェレスタ(C dur)、そして第5倍音(Edur)をピッコロが担っている。
多調とは異なる余談だが、このような「別の楽器のサウンドを再現」と言えば黛敏郎涅槃交響曲を思い出さざるを得ない。これは先程と同様に梵鐘のサウンドを倍音を分析した上で再現されている。そもそも音色というものは倍音の要素によって決まるため、音色の再現をした上で旋律を奏でるとなると並行多調にならざるを得ない。つまり単旋律でも純音でない限り広義の並行多調や!!(詭弁)

2.運鈍根(スプラトゥーンより)

スプラトゥーンをやったことない人も聴いたことあるかも?一時期ネットで「拍子が増える曲」として話題になってました。10/8→11/8→12/8..って増えていくんです。ちなみに私はスプラトゥーンやってません。一回友達に借りてやったけどジャイロ機能で腹部が捩じ切れて死。そこをチャージャーでぶっ殺されてドカ鬱。ありえねーーー。

そんなことは置いといて、曲を聴いていきましょうね。この曲のステムデータとか楽譜はないため、聴きミスしてたら土下座します。明らかなCメジャー始まっておきながら2小節目でGAB♭CC♯♪って具合にしれっとディミニッシュスケールしてますけど、まあそれは置いといて。3小節目からチェロがCメジャーの旋律を演奏(全全)。その後、チェロとはチューニングの異なるウニョウニョした音のシンセがEとE♭の間ぐらいのdurで並行的に入る。その後別のシンセがGから入るが、今度は並行ではなくGA♭B♭(半全)というふうに動く。その後また別のシンセがBフラットから入り、またもや並行ではなくB♭CD♭(半全)と動き、同音連打前の下降音形がない。最後にDから始まる半全の音形が参加しピッチが上昇して次のパートに入る。
なんかぐちゃぐちゃ言ってますけど、これは並行ではないが音形が同じタイプの多調です。音形多調とでも言っておきますか。ボレロと違って「異なる調が同時に存在している」って感じが強いですね。任天堂まじかあ。

3.ブリュッセル・レクイエム(アッペルモント)

(この演奏はフルバージョンではなくカットされています)
吹奏楽やってる人は絶対知ってる曲ですね。難曲ってイメージが強いですけど、めっちゃいい曲なのでほんまに、みんな、フルで聴いて(懇願)。
この部分は低音がコンビネーションオブディミニッシュスケールのモチーフを吹きながら、その上でトランペット1,2,3とコルネット1が並行多調を行なっています。私の聴いてる曲が偏ってるだけかも知れませんが、並行多調ってある和音にフォーカスしてそれを並行的に動かす曲が多いと思ってます。ボレロの場合、ある意味メジャーコードを並行的に動かしているという解釈もできなくはないです(しないけど)。この曲のここは、コードで表記するのであれば、便宜上「M7♭5sus4」って表記になると思います。ですがこれ、4度音程を半音でずらした和音って解釈でも良さそうですね。なんにせよこのハーモニーが気に入ったようです。自分はよくこういう時のメモは「並行多調(M7♭5sus4)」みたいに書いたりします。

こういうの、いくつか見て見ましょうーーーー

アコーディオニストのCobaが書いたクラリネット四重奏曲。この曲の冒頭はクラリネット1,2,3が並行多調(m)で始まる。

デザンクロのサクソフォン四重奏曲第三楽章。アンコンでよく聴く。冒頭は並行多調(6sus4)で始まる。便宜上この表記だが、頭の構成音はバリトン:H、テナー:F#、アルト:E、ソプラノ:G#という開いた構造で並行的に進む。

4.春の祭典(ストラヴィンスキー)

おまたせ。春の祭典より、生贄の踊りを抜粋させていただきました。みんな大好き春の祭典、明らかに不協和音、調もよくわからないのになんでこんなに聴きやすいんだろうってよく思いませんか?私の考察なのですが、明確なメロディーが存在し、それが調性を伴っていることを前提としているからだと思っています。
全人類大好きな生贄の踊りですが、この冒頭って大雑把にざーーーーっくり聴くとD durを軸としてることがわかると思うんです。実際はE♭の長和音の上にD7が乗った形で、その後ゴニョゴニョ..って書き出すとクソ長くなるしあんまりちゃんと分析できてないので書きませんが、D durを主体として他所で別の調が混ざっている形なのはわかると思います。非並行多調であるものをここでは「ズレ多調」と呼ぶことにしましょう。先ほどのブリュッセルレクイエムもバスがずっとコンディミスケールをしてるため、ズレ多調の要素もあると解釈してもいいかもね。

5.ピアノソナタ第6番(プロコフィエフ)

四楽章を引っ張り出しました。この曲今練習してるんですけど終わりが見えねえ。むずいて。ってことで見ていきます。
明らかなG# mollの旋律、そしてその主和音が演奏されている。しかしすぐに左手のみ半音下のGの長和音へと下がり、その後メロディは元の調を保った後にそれを追っかけるように遅れて和音の5度に当たる音を弾く。さらにその後、下がった和音を主軸としながら、高音からのスケールの下降は最初のみFの音だがG#mollの平行調にあたるH durを演奏している。この曲だけでなく、他の曲でもプロコフィエフは半音違いのズレ多調をよく使う(束の間の幻影とか)。
もしかしたらこの場所は短調における偽終始を念頭においたプロコフィエフなりのT-D-Tなのでは…??とかたまに思う。(AmollにおけるE→Fの進行が可能ならE→Fmもできるよね、みたいな思考回路だったのかなってこと。)

6.ピアノソナタ第2番(プロコフィエフ)

ドゥーン!(迫真C# sf)
四楽章の例の場所です。このC#、最初の用法はF#の構成音だったけど最終的に元の調であるDの導音になるの、感動する。
ここは大雑把に言えばC-F#m(後にC-F#)が交互に演奏されています。同時ではないが調性が複数あるこのような状態を、ここでは連結多調と呼びましょう。もう、聴けばわかりますね。この楽章の他の場所にも連結多調があるので、ぜひ聴いてみてください。
一応、さっきのピアノソナタ6番にもそういう場所があります。

なんやこれってなるけど、よく見ると一拍ごとに調が変わってます。脈略なくコロコロ調が変わるのって基本的に多調扱いされないけど、まあ、うん。
主題を長3(短6)、三全音、半音を中心に転調させて弾いてるっていう情報だけここに置いておきます。知ってても弾けねえよ。

まとめ

大雑把に多調をまとめるのであれば、
・並行多調
・ズレ多調
・連結多調
の三つですかね。
並行多調はメロディに伴って特定のハーモニーが動き、ズレ多調は非並行の異なるハーモニーや旋律を重ね、連結多調はコロコロ調が変わるってイメージですね。ポップスでも多調使われる時代が訪れるといいな。もう21世紀ですし。

それでは皆様、良き多調ライフを!


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