アウトレイジ
本日は北野武監督の現代ヤクザ映画「アウトレイジ」について書いてみたいと思います。これ公開されたときは何故か映画館に観に行かず、その後ブルーレイが発売された時に買って長いこと置いていたんですが、「アウトレイジ ビヨンド」公開時にそろそろ観るかと思って観たのでした。
もともと北野武監督の映画というと「その男、凶暴につき」を観て衝撃を受け、だいたいバイオレンスものはほとんど観ている私です。だから最近のものはあんまり観ていないんですけど、それなら「アウトレイジ」も劇場で観ろよという話なんですが、なんだか北野監督の映画は映画館で観るより家で一人で観た方がいいような感じがしてなかなか映画館に足が向かないのです。自分でも理由は分かりませんが。
で、満を持しての「アウトレイジ 」なんですが激しい暴力描写はかつての通りなんですが、ヤクザとしての分かりやすい恫喝演技と定番の筋書きと豪華なキャストでもってグッと娯楽映画よりになっています。北村総一朗さんや三浦友和さんなんてヤクザ役なんて合わないんじゃないかと思っていたらこれがなかなかどうして実に堂に入った芝居を見せてくれます。
お話はその北村総一朗さん演ずるヤクザの親分が傘下の組長たちにああだこうだ言って波風を立てて、暴力の連鎖が起こっていくだけというものです。特に発端となる事件があったわけでもなくて、おそらくは小さい組が結託すると自分の地位を脅かすような悪いことを考えるんじゃないかと考えて仲悪くさせておこうとか、目障りな奴を始末しとこうとか、まあそんなことからいろいろいちゃもんをつけてくるわけですよ。こういう発端がアバウトな感じが、例えば会社勤めの方が観てもそうそうそういうことってあるよね、と身につまされてくれるので普遍的なテーマが浮き出てきていいと思います。
特にビートたけしたち武闘派ヤクザの連中は國村隼演ずる貫目が上の親分に命じられるままにいろいろ仕事をこなしていくんですが、言う通りにしたのに破門になったりとさんざんな目に合います。それまでのたけしさんの映画は主人公が無軌道な暴力をふるったり、自殺衝動かと思えるような無茶な道を進んだりして共感できないことが多いんですが、今回の後半におけるたけしさんの怒りは観ていて凄く共感できます。そういう意味でも武映画としてはちょっと異色の作品かもしれません。
とは言え皆さん自分の身だけが可愛いヤクザでして誰に感情移入して観られるものでもないので、あとはそいつらが破滅していくのをニヤニヤ笑いながら見るだけの映画とも言えます。このように非道な人間たちが非道な方法で殺されていく様を連続で見せられるとブラックなギャグにしか見えなくなってきて、それだけに大使館のくだりの分かりやすいユーモアは、息抜きのつもりで入れたのかもしれませんが、全体の乾いた笑いのムードとはどうにも食い合わせが悪くて、ここだけちょっと惜しいなあと思いました。
役者さんは皆さん好演ですが、常にふてぶてしい椎名桔平さんが一番印象に残りましたかね。彼の殺され方がまた凄いんですよ。映画としてはもう一つグダグダというか、これだけ時間をかけたならもっと凄いことが起こるかと思ったらそのスピードでそうなるのかよみたいな嫌な中途半端さが妙にリアルで、本当にたけしさんは他の人がこだわらないところにこだわる人だなあと思いました。