トータル・リコール(2012)

 というわけで、昨日に引き続いて「トータル・リコール」の話です。リメイクの方ですね。公開した当時は期待いっぱいで、いや監督さんがレン・ワイズマンさんなのでちょっと期待を抑えながら観た覚えがあります。

 冒頭はまあ似たような感じで、ストーリーもオリジナル版に準拠して進んでいきます。だから例によってディックの原作は設定と前半だけなぞって全く別物です。火星要素はなくなり、地球が科学戦争に汚染され、ブリテン連邦とその裏側のコロニーにしか住める地域はなくなり、その植民地的な階級闘争が映画の背景となっています。いや厳密に言うと違うんでしょうけど、ちょっと腑に落ちない設定なんですが、まあ分かりやすく言うとそんな感じです。で、工場労働者のクエイド(コリン・ファレル)がリコール社に行って、記憶を買おうとしたら、なんかテロリストだといっていきなり警察に取り囲まれ、そいつらを一瞬のうちに撃退してしまい、俺は何なんだ? という展開になっていきます。

 面白いのはこの未来世界のビジュアルが、コロニーは「ブレードランナー」風で、ブリテン連邦はエアカーとかの描写が「マイノリティ・レポート」風で、他のディック原作の映画化作品からビジュアルイメージを引用していたりすることです。ひょっとしたら私の未見のディック原作映画からの引用もあったかもしれません(ないかもしれません)。で地球の裏側へ行くのに貫通トンネルで一直線に向かうという、無駄にSFチックな設定も盛り込まれています。オリジナル版のシャロン・ストーンさんとマイケル・アイアンサイドさんの役が一人に統合されており、これをケイト・ベッキンセールさんが演じているわけですが、そのせいで最初から最後までベッキンセールさんに追われる展開になっていて、なんでそんなにも執念深く追ってくるのか疑問に思わなくもありません。この辺りはこのバージョンならではのなんらかの因縁を用意してあげればいいのにと思いました。

 最初から最後まで退屈することなく派手なビジュアルエフェクツやアクションでもってお腹いっぱいにはなるのですが、言い方を変えると後半に行くに従って食傷気味になるというか、結局どんなにデカイ場所で凄いCGを使っていてもやっぱりバシバシ格闘なのかよみたいな、類似したイメージの連続が気にはなります。お話の方も、オリジナル版の火星の秘密が最後に明らかになって酸素が発生して人が住めるようになりましたというのを廃止したのなら、ははーん、最後に何かの装置でもって地球上の汚染が浄化されてまた世界に人が住めるようになりましたとなるのかなと思いきや、全くそんなこともなく、悪い奴らを全滅させて終わりという、シュワちゃん映画よりもさらにゴリ押し展開なのは逆に面白かったくらいです。

 そういったギミックがないものですから、物語の意外な展開といっても、夢か現実かとか嘘か本当かとか敵か味方かみたいな、二択のどちらかをいったりきたりするだけの話ですので、次第にこいつら何が目的で戦ってるんだっけとしばしば思い出す努力をしないといけなかったりします。一言で言うなら全体的に凄くもったいない映画という感じです。つまらないというわけじゃないんです。それなりに面白いです。でも何かもったいない感じはします。

 ただ観ているこちらがぜいたくになりすぎているのかなあとも思ったりします。こういったSF映画で細部にチャチさが全く感じられないようなものができるようになったのはごく最近の話なわけでして、それはとりもなおさずCGなど映像技術の進歩によるものなわけです。それをいつの間にか当たり前のように感じ始めて、今度は「CGだけであまり新鮮味ないよね」みたいな文句まで言うなんて観客である我々は本当にわがままなものです(私だけかも)。でもまあ無理に褒めてもどのみち制作者に届かない場所で勝手に書いてることなのでいいか。結構ネガティブなことも書きましたが、総括するともちろんオリジナルには及ばないのですが、これはこれでまあまあ面白い映画ではありました。以上。

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ウルフガー
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