インターステラー

 本日はクリストファー・ノーラン監督の「インターステラー」について書いてみたいと思います。この映画、一年くらい前から予告が流れていて、なんとなく私は「コンタクト」みたいな感じの映画かなと思っていました。マシュー・マコノヒー出てますし。まあ大筋としては「2001年宇宙の旅」や「コンタクト」の系譜に連なる宇宙の果てや人知を超えた存在への思索を軸としたシリアスなSFなわけですが、ノーランらしい実に完成度の高い映画となっています。

 映画の舞台は何年とは言いませんが近い将来地球の資源がどんどん枯渇していき、ゆるやかに死滅しつつある世界です。そこで元パイロットでエンジニアのマコノヒーが祖父と子供二人と共に農業を営んでいます。宇宙開発よりも食糧問題の方が重大で、あまり気は進まないのですが農家をせざるをえない感じっぽいのです。ある日、娘の部屋の幽霊からのメッセージである地点にいくとそこに極秘で再結成されたNASAの残党たちが地球を捨てて第二の生存可能な星を求めて宇宙計画を進めているのに出くわします。なんだかんだでマコノヒーはパイロットとして宇宙探査のチームに加わることになっていくというお話です。だいぶはしょってますので乱暴だと思うでしょうが、本編もかなりはしょっていて本当ならもっと地球パートなんかは長くやりたかっただろうなあと思ったりしました。

 観る前から3時間あるということは知っていましたので、長い映画だろうなと覚悟していたらむしろ短く感じるほどの映画でした。これは面白かったから短く感じたという意味もありますが、描こうとしている話に対して時間が短すぎるという意味合いもあります。だからちょっとダイジェストっぽい感じや説明が足りてない感じもあるんですが、これ以上長いともう映画じゃなくてドラマでやろうよという話になりかねませんし、省略法が結果的に良い演出になっているシーンもあるので(マコノヒーが車を走らせるところとカウントダウンのオーバーラップなど)一概に悪いところばかりとも言えません。ただ息子と娘の確執とかは分かりにくかったですね。あれで解決するもんか? と心配になりました。

 あと出てくるロボがなかなか個性的で頼りになります。SF映画に出てくるロボと言えば論理的であるあまりトラブルを起こすというのが定番ですが、この作品では人間の方が人間的感情を原因にトラブルを起こしてロボはひたすら頼りになるのでなかなか面白かったです。また大破して回転する母船にドッキングを試みるシーンとかあまり期待していなかった熱い見せ場などもあってとにかく中身の濃い映画となっています。

 SFとしてそんなに新味のある話というわけではないのです。よくある話と言っては言い過ぎですがSF慣れした人なら「ああそのパターンね」とすぐ飲み込める展開だと思います。ループものと言いますか、原因となるのが実は未来の自分だったパターンと言いますか、ドラえもんとかにもあるアレです。でもそこが斬新なアイデアでなかったからと言って価値を失うような映画ではありません。というのもそこの部分をちゃんとやった映画って意外にないような気がします。ちゃんとやったというのは、ストーリー展開の奇抜さとかロジックの完成度だけでなく、そこに人間ドラマをちゃんと乗っけてロジックとエモーションの盛り上がりを一致させている映画と言いますか、ただ謎解きの面白さだけでなく、過去改変ができないことで観客を泣かせることができるまでにSF的設定とドラマを融合させたものってそんなにないと思います。だからこれはありそうでなかった、誰でも作れそうでやっぱりノーランにしか作れなかった優れたSF映画だということができると思います。

 こういったスケールの大きい映画というのはどこまでも表現を大きくできてしまうので逆に散漫になりがちなんですが、そこで無駄を極力省くことによってシンプルで力強い映画になったような気がします。地球の資源の枯渇をトウモロコシ農園だけで表現するなんてなかなか大胆だと思います。普通もっと各地の様子をモンタージュして描きたくなるものだと思うのですが、これとか人類を襲う災害も砂嵐だけで済ませてしまっています。変に説明的でなく絵で見せているのでこれでも納得できましたね。

 最終的にそもそも何者があれを作ったのか、とか発端を考え出すとよくわからなくなってきます。ループ構造と言いますかマッチポンプと言いますか、とにかくなるようになっただけのお話だからです。でもそれは作り手の狙いの一つではないかと思います。劇中で成長した娘が博士の数式を見て、これは自己証明に回帰してるだけで意味はないみたいなことを言いますが、それってそのままこの映画のストーリーなんですよね。そして娘は博士の死後、数式を消して自らの力で新しい式を書いていくわけですが、この映画の作り手も観客にそれを期待しているのではないでしょうか。このような絵空事の映画の解決策などを信じず、自らの手で地球の未来を切り開いていって欲しいというメッセージだと思うのは深読みのしすぎでしょうか。

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