悪魔のような女

 今回はあまりに傑作なサスペンス「悪魔のような女」をご紹介します。シャロン・ストーン主演のリメイクの方ではありません。アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督の1955年のフランス映画です。この映画に触発されて、ヒッチコックが「サイコ」を撮ったという噂もあるほどです。これを私はたしかNHKの衛星放送で観たと思います。サスペンス特集とか何とか、あっ思い出しました。黒澤明の選ぶ名作みたいなシリーズでした。それでよほど凄いのだろうなと思って観た覚えがあります。夜中に1人で観たのですが、本当に身の毛のよだつ映画でした。なるべくなら予備知識なしで観て欲しいので、未見の方はできればこの先は読まないで下さい。

 まずボアロー&ナルスジャックの原作が素晴しいです。この人たちは「めまい」の原作も書いています。あとマイナーなところでは「ボディパーツ」という映画の原作もそうです。横暴な男を、妻と愛人が結託して殺してしまおう、というアイデアがまず非凡です。男は寄宿学校の学長か何かでした。愛人はそこの教師だったと思います。二人は男を旅行に連れて行き、そこの風呂場で溺死させます。その旅行というのはアリバイ工作です。女二人の旅行のように装っておいて、帰ってきて男の死体を学校のプールに入れるのです。そうすれば男がプールで溺死したときは、二人は旅行中。アリバイ工作完了です。当然次の日から男の姿はなく、行方不明となるのですが、二人は男の居場所は知っています。気の弱い妻の方は、早く男の死体がプールにあると気付いてほしい。しかしわざとらしくプールを調べてとも言い出せない。この辺のジレンマが凄くサスペンスフルでハラハラします。

 結局プールの水を抜いて、何かを探すことになります(ボールか鍵だったかな?)。そしてプールの水が全部抜かれたとき、妻はとんでもないものを目にします。プールから男の死体が消えていたのです。さてここからがサスペンスなのかホラーなのか、何が真実で何が嘘なのか、まるで分からなくなってきます。そのうち行方不明の男を追う探偵が現れ、二人の女を追いつめていきます。愛人はそうそうにトンズラし、妻だけが探偵の追求と男の陰に怯えていきます。集合写真に男の霊が写るところなど、本当に恐いですから1人で観ないでくださいね。

 クライマックスでは妻の目の前に死んだはずの男が……、いやこれ以上は書けません。とにかく本当に心臓が止まるほど恐ろしいシーンが待ってます。さらにそれが終わってどんでん返しが何度か続きます。ホラーとしてもサスペンスとしてもミステリとしても一級の映画です(探偵の行動としてどうか? という部分はありますが)。

 私はこの映画の最後の最後、少年のセリフを最初に観たときはあまり真に受けず、洒落た感じで終わりたかったんだなくらいに、見間違いか何かをしているんだなと思ったんですが、よくよく考えたらここでもう一度心霊ホラーにしてびっくりさせようという魂胆だったんだなと最近になって気づきました。そういう意味では初見で全てを味わい尽くせなかったわけで、もう一度記憶をなくしてはじめから観たいなと思わされる映画でした。

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