ヒッチコック
本日は、タイトルの通りサスペンスの巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督を題材にしたノンフィクション映画「ヒッチコック」について書いてみようと思います。物語は「サイコ」撮影時の裏話に絡めながら妻のアルマとのドラマを描くことに集中しています。よくあるその人物の半生を描いたものというわけではありません。なので良くも悪くもあっさりしたテイストと言いますか、重い作品にはなっていません。洒落たセリフとそれほど深刻にはならない人間ドラマを楽しむ感じです。
まずヒッチコック劇場の音楽がかかりながらアンソニー・ホプキンス演ずるヒッチコックが出てきたオープニングで、ああこれはヒッチコックのファンのためのプレゼントのような映画で、真面目に批評するつもりで観るものではないな、と感じたので、積極的に楽しむつもりで鑑賞しました。でもファンでない方が楽しめるかどうかはちょっと分かりません。特に「サイコ」を観ていない人だとちょっとキツいかもしれません。ストーリー上仕方の無いことですが、思いっきり「サイコ」のネタばらしから始まるようなものですので。
あちこちにヒッチコック映画のシチュエーションや小道具がサブリミナルのように散りばめられていて、それを観ているだけでもなかなか楽しめます。時期的には「北北西に進路を取れ」の後、映画会社はそういったヒット性のあるものをまた撮ってくれと望むのですが、ヒッチコックはマンネリに陥りたくないという心境からもっと過激な題材を探し、猟奇殺人犯エド・ゲインの事件そしてそれを元にしたロバート・ブロックの小説「サイコ」に目をつけるのでした。当時そのような題材を映画にすることの風当たりの強さなどが観ていて興味深いです。何事も先駆者というのは大変だなと思いました。
実を言うとホプキンスはメイクによってかなり似せているとは言え、それほどヒッチコックに似ているようには見えません。でも観ているうちにヒッチコック本人に思えてきます。他の役者さんたちも似せているというより、自分なりの解釈でその人を演じ、存在感を出すというアプローチで、唯一アンソニー・パーキンス役のジェームズ・ダーシーさんだけ「それモノマネだよね?」と言いたくなるくらいそっくりで、ちょっと笑ってしまいました。
なんだかこのまま書いていくと散漫な感想になってしまいそうで怖いので細部はその辺にして、ちゃっちゃっと書いてしまいますと、天才と言われた監督ヒッチコックですが、その影には妻の内助の功があったということで、メインはやはりヘレン・ミレンさん演ずるアルマなわけですよ。なぜかサービスカットがふんだんにあるのが気になりますが、いかにも才女でありながら、内にいろいろな物を秘めている感じを匂わせるなかなか素晴らしい演技で、ホプキンスさんはそれに張り合うのでなく、しょんぼりしてみたり言い返せなかったり憮然としてみたりという受けの演技で応えて、良いコントラストになっています。
そんなわけでもっとコアな内容を期待した映画ファンに向けて、「サイコ」のような衝撃的な映画の完成によって夫婦の痴話喧嘩が解決するというような、それ自体がもうすでにジョークみたいな映画なのです。あまり肩の力を入れずに観るのがいいと思います。ただエド・ゲインの幻と対話するのって必要なかったんじゃないかみたいなことは思いました。しかしこれも何かありそうで何もないという、ギャグの一種だったのかもしれません。そういうわけで真面目に作られているようでこれかなり人を食った映画で、ヒッチコック監督へのオマージュとしてはなかなか作風に忠実とも言えるのではないでしょうか。
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