アイデンティティー

 「フォードVSフェラーリ」のジェームズ・マンゴールドさんの監督作で、過去に観た映画、それも以前ブログに書いてストックのようにすぐ出せるものあるかなーと探していたらいい映画がありました。「アイデンティティー」です。これ公開時にかなりの衝撃的な内容で話題になった作品でして、これをネタバレせずに感想を書くのは非常に難しいのですが、まあぼちぼちやってみます。

 嵐の夜、あるモーテルに偶然、数人の男女が集まります。犯人を護送中の刑事、タレントと運転手、恋人同士、家族連れなどなど……、集まった十一人ですが、事故で重症だった女が消えたのを皮切りに、一人また一人といなくなっていきます。まるで「そして誰もいなくなった」のように……。殺されたのか、それともどこかへ行ったのか分かりませんが、とにかく消えていってしまいます。そして主人公のジョン・キューザックは、偶然集まったはずの自分たちに、ある一つの共通点があるのを発見します。

 同じ頃、ある死刑囚の責任能力を問うため、その精神状態を鑑定する審議会が開かれようとしていました。その死刑囚は、日記に謎めいた言葉を残していたのです。

 いやーこれ以上書くともうやばいのでこの辺にしておきます。この一見関係ないと思われるモーテルでの怪事件と死刑囚との会見が、交互に描かれていきます。そして事の真相が分かったとき、んなアホな! と驚くと同時に、見事に騙されたと、誰もが喝采を上げるでしょう。とにかく反則ギリギリのアイデアと、それを巧みに見せる演出には参りました。「コップ・ランド」でなかなかいい演出をしていたジェームズ・マンゴールド監督が、派手ではないのですが、室内の撮り方など、何かあるような思わせぶりな構図で緊張感を途切れさせる事なく、一気にラストまで観客を乗せてしまいます。

 さあ、クライマックス前にいったんこの映画の最大の謎が明かされるのですが、実はラストでもう一つ、衝撃的な展開があります。実は……こうだった、という種明かしが最後に行われるのですが、このフラッシュバックというか、一瞬で次から次へと流れる映像が、あまりに衝撃的なため、思わず笑ってしまいました。とにかくこれはやりすぎです。日本で言うなら新本格ミステリです。そのくらいとんでもないサスペンス映画なのですが、これ再見すると分かりますが、実にフェアにできています。とにかくまだこんな手があったのか、と感心しました。まだ観てない人は、誰かにネタバレされる前に早めに観た方がいいと思います。ただこの手法(映像的叙述トリック)ってこの後にもたくさんの作品で使われていて、そういうのをさんざん観た人だったら、途中でネタが割れたり、大したことないな、と思ってしまうかもしれませんね。映画を観るタイミングというのは本当に難しいものがあります。

よろしければサポートお願いいたします。