ジェーン・ドウの解剖
以前から気になってはいたのですが、何故か観ていなかった「ジェーン・ドウの解剖」をAmazonプライムにて発見。さっそく鑑賞しましたので、感想を書いていきたいと思います。監督はアンドレ・ウーヴレダルさんです。「トロール・ハンター」というのを撮っているのですが、これもタイトルを知っているだけで、未見。ほぼ予備知識なしでの鑑賞となりました。
何人もの他殺体がある家で、警察が地下に女性のほぼ無傷の死体を見つけるところからお話は始まります。侵入者の形跡がないとのことで、それならお互いに争って殺し合ったということになりますが、詳細がわからないまま、女性の死体はある葬儀屋に送られます。そこには親子でやっている検屍官がいまして、その二人が今夜中に死因を割り出してくれと依頼されるのでした。
まずこの地下の死体置き場の廊下やらを舐めるように撮影するカメラワークがちょっと良いのです。また検屍官親子のやりとりや、息子が彼女とデートに行くはずが、急遽送られてきた女性の死体のためにそれをキャンセルして、解剖を行うことになる展開が手際良く描かれ、ああこれはしっかりした映画だなと思いました。極端に低予算であったり、ただ血をたくさん見せて観客を驚かそうというような、そういう映画ではないなと思いました。
その死体がジェーン・ドウなのですが、もちろん本名ではなく身元のわからない人につける仮名です。男性ならジョン・ドウで、こちらは「セブン」の犯人の名としてお馴染みでしょう。そのジェーン・ドウの死体が美しいのです。もう何がどうと言うのは難しいんですが、一目で「何かがおかしい」と感じるような死にっぷりです。まず顔形が美しいのは当然として、プロポーションも申し分なく、色は異常なまでに白く、死体だというのに傷も痣もなく、かと言って今にも動き出しそうな生気はなく、間違いなく死んでいる感じはあります。死んでいるが故の異様なエロチシズムがあります。ちょっと「スペースバンパイア」のマチルダ・メイ嬢を思い出しました。
言い忘れていましたがネタバレをしますので、まだ未見の人はこの先読み進むかどうかよく考えて下さいね。一応、何が起こるかは知らない方がいい類の映画だと思います。
で、ジェーン・ドウは淡々と解剖されていくわけですが、特にグロさを強調するわけでもなく、仕事としてテキパキと切り刻まれていきます。当然、死体ですから動きませんが、このジェーン・ドウ役の女優さんの演技が素晴らしいと思いました。どこまでが女優さんの力かはわかりませんが、全く動かないのにやはり映画の中で強烈な存在感を示していまして、映画を引っ張っているという感じがしました。まあ監督さんの演出力と、CGなどの特殊効果の力もあってのことと思いますが。
解剖を進めるうちに、少しずつ妙なことが起こり、また死体の状態が異常であること、体内から何やら不思議な物体が出てきたりすることで、だんだんとどういう物語がハッキリとしてきます。このあたりの徐々に不穏になっていく感じ、また手がかりが少しずつ見つかる感じは凄く良かったです。まだオカルトめいた話なのかそれとも謎解きミステリなのか分からないので、どんな些細なことも見逃すまいという感じで集中して観ていました。外には嵐が近づき、ついに照明が壊れて、停電した瞬間、この映画の方向性が明らかになり、超常現象ホラーとなります。実は彼女は魔女で、死体置き場の死体がその魔力で蘇り、襲ってくるみたいな展開になります。まずここまでの前半部分は本当にこれ最高傑作だろというくらいに興奮して観ることができました。そして後半もホラー映画として平均以上のものではあります。例えば最後の最後までジェーン・ドウは全く動かないというのはかえって不気味で成功していると思います。つい最後には動かしたくなってしまうものですけど、いい我慢だと思いました。中盤の死体が動き出したことを鈴の音でわからせる演出や、そもそも死体が動いたと二人が思っただけで、実際は動いていなかったのでは、というような展開もなかなか練られていて良いのです。
にもかかわらず、私は後半部分がちょっと尻すぼみかなと思ってしまいました。いろいろ謎解きみたいなことを前半に匂わせたわりには、結局全てが仮説でしかなく、よくあるホラーとして着地したみたいな感じがして、物足りなく思ってしまったのです。ひとえに前半部分が良すぎたと言うしかありません。途中までが、ひょっとしたら観たことも聞いたこともないとんでもない領域に到達するような凄いラストがこの先に待っているのではないか? と期待させるほど素晴らしかったということで、全体的に駄目ということではないので、一つご勘弁いただきたいと思います。まあ勝手な期待を映画の中盤までで持つものではないですね。また一ついい勉強になりました。