ゴーン・ガール

 本日は以前WOWOWかどこかでやっていたのを録画しておいた「ゴーン・ガール」を観ましたので、その感想を書いていきたいと思います。非常にサプライズな展開の多い映画で、宣伝でもその辺は明かしておらず、ミステリーサスペンス系の映画なわけですから、ちょっとデリケートな書き方をしなければいけない映画です。ただどうでしょう。もう公開から5年ほど経っていますので、あまりネタバレに関しては気を使わない書き方をしますので、もちろん未見の人もいるでしょうからモロには書きませんが、いつものことですがお気をつけ下さい。

 監督はデビッド・フィンチャーさんですよ。大抵観ているつもりでいましたが、結構見逃しているのありますね。「セブン」と「ファイトクラブ」はもちろん観ていて、大好きなわけですが、サスペンスだけに留まらずいろんな映画を撮り始めた辺りから、なんか観なくなってしまいましたかね。あ「ソーシャル・ネットワーク」は観ました。傑作でした。

 で予告で見た限り奥さんが行方不明になる映画だと思って、このたび観たわけですが、大抵こういうのって二択じゃないですか。二択のあっちとこっちを行ったり来たりするだけの映画ってあんまり面白くないというイメージがあります。実際、フィンチャー監督の「ゲーム」はそういう映画でした。そんな不安がちょっとあるものでしたから、すぐにでも観ようという感じにならなかったんでしょうねえ。うまく説明できませんが。

 いやー最高に面白かったですねえ。なんで今まで観なかったのか自分を叱りたいくらいでした。面白いという表現ができる映画だとは思いませんでした。もちろんサスペンス映画であり、後半は非常に嫌な気分に、男性なら背筋が凍るような恐怖を感じるところでしょうけど、良い映画を観たときの充実感もあって、ただ不快にさせてやろうという映画ではありません。お話はベン・アフレック演じるニック・ダンという主人公の奥さんがある朝いきなり失踪するところから始まります。奥さんのエイミーはロザムンド・パイクさんが演じておりまして、私はこの人の映画はトム・クルーズの「アウトロー」しか思い当たりませんが、今回凄い演技を見せます。ときどきキャスリーン・ターナーみたいに見えることがありますね。若い方はご存知ないかもしれませんが。

 失踪した奥さんを探そうとマスメディアを使って呼びかけるわけですが、だんだんこの夫が殺したんじゃないの? みたいな疑惑が出てきて、ベン・アフレックの二枚目だけどボンクラな感じをうまく生かした好演も相まって、ああそういう疑惑に巻き込まれた善良な人の災難の話なのねと思っていたら、あれ? 本当にこいつが殺したのか? とか、殺ってないにしてもこいつ相当のクズだし同情できないな、みたいないろんなことを思います。無駄を排したいつもながらの正確な構図とカメラワークで無機的な演出に見えますが、フィンチャーさんの観客の心理を操る非常に巧みな手腕に唸らされます。

 実は真相は、とネタが明かされてなるほどと思ったのもつかの間、まだまだそこは映画の中盤で、さらにいろんなことが起こっていくので驚かされます。そこはまあ観てのお楽しみということで詳しくは書きませんが、いろいろあってことが収まるかに見えた瞬間に待ってましたとばかりにメディアが群がるシーンでは笑ってしまいました。これストーリーを要約したらとんでもない話なんですけど、観ているうちにこんなこと実際にありそうと思えてくる怖さがあります。事件もそうですが、それを取り巻くメディアや観衆の手のひらをすぐに返す無責任さが、かなりの風刺を込めて描かれています。後半はちょっとしたブラック・コメディの味わいもあると思います。

 ラストの不気味さと言いますか、スパッと決まらない加減が人によっては上手くいってないように見えるかもしれませんが、かく言う私も一瞬そう思いかけましたが、これつまりさっき言いました二択のあっちとこっちとかいう話ではなく、このままですよと、つまりこのままずっと続くことが結婚なのですよ、と。そういうことなのですね。そしてそれは何もこの映画の中の二人のことだけでなく、私たちにも言えることなのですよ、みたいなことで、こういう不気味さこそを最後に見せたかったのでしょう。だから白黒決着がつかないことの恐怖ということです。ただそれにしては中盤のある展開によって明確に奥さんが邪悪な存在になってしまっているのは、ちょっと「わかりやすい構図」になりすぎていて、不気味さを狙うには逆にマイナスなんじゃないかなとも思えました。それでも原作者が脚本も書いていますので、まあこれでいいんでしょう。ともあれ、今ひとつ観るのに踏ん切りがつかない映画でもこのように大傑作であることもあるので、迷ったら観る、を今後は心がけるようにしましょうか。しましょうね。

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ウルフガー
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