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【野球】WBCの課題とこれから

 今回は広島カープのシーズン振り返り以来の野球ネタです。先日行われたWBCのオーストラリア戦を東京ドームで生観戦。日本中が待ち侘びた大谷翔平のホームランなど貴重な体験でした。
 一方でまだ5回目の開催であり、そもそもの野球が抱える世界への普及など多くの問題も感じた大会でもありました。そのような課題や改善の提案をここに綴ろうかなと思います。

WBCの課題点

  不参加選手の多さ

 やはり大会の永遠の課題である不参加選手の多さ。2023大会は大谷翔平、ダルビッシュ有、吉田正尚、怪我で辞退とはなったが鈴木誠也のMLB組が参加し、日系人のラース・ヌートバーも日の丸の一員として参加。大国アメリカも野手は偶にMLB中継を見るぐらいのにわかな自分でも聞いたことのある選手ばかりで、大会を追うごとに参加する選手も多くなっている印象。
 一方で2023年から先発転向予定の西武・平良海馬や、同じく2023年からMLBに挑戦する千賀滉大などは不参加を表明。スター軍団アメリカでも絶対的ホームランキングのアーロン・ジャッジや2022年サイ・ヤング賞のベテラン・ジャスティン・バーランダーなどは不参加。特に肩・肘は消耗品という考え方が強いMLBでは、投手は球団側がOKを出さない場合も多い。
 この理由としてはアメリカが厳格な契約社会なこと、大会に参加するメリット、後述のシーズン前という大会開催時期など様々な要因が考察される。卵が先か鶏が先か論争にはなるが、大会の権威そのものを上げる必要がある。

  日程の不公平さ

 日本代表が初戦を戦った中国代表は、23時近くまで試合を行った翌日の昼12時から試合を行った。試合間のインターバルは僅か半日強という過酷な日程。日本が戦ったプールBは中国・チェコ・オーストラリアがインターバル半日強のナイター→デーゲームをこなす過酷な日程を強いられた。また韓国もインターバルこそ設けられていたが、デイ→ナイター→デイ→ナイターと難しい調整を強いられた。
 一方で日本は開催国な上に全試合ナイター開催、かつ準々決勝は突破順位に関係なく1日余分に空く日程だった。日本が興業成立において必要不可欠であるのは事実だが、あまりにも日本有利の日程ではあると感じる。
 日本開催のプールB以外に、台湾開催のプールAでもオランダ以外の4チームがナイター→デイの過酷な日程だった。プールCでも初出場のイギリスがそうだったが、基本的にランクが下の国が過酷な日程を強いられるのは興業としての面白さが少し欠けるのではと感じる。
 また、準決勝の日程がアメリカ2位通過により変更になったのも話題になった。準決勝はアメリカが現地時間の日曜、日本は祝日である春分の日の朝と、2大国に配慮された日程だったのは事実である。

  開催国の固定

 これは仕方のない部分もあるが、WBCは過去大会も含めて準決勝・決勝はアメリカ開催、プール戦や準々決勝は日本や台湾、韓国の東アジアとプエルトリコら北中米カリブ海地域での開催で固定されている。
 それは野球が盛んな地域が東アジアとアメリカ周辺の北中米カリブ海しかなく、野球は他競技とのフィールドの兼用が難しいのもある。また欧州にも野球場は存在するが、大学やプロ野球の2軍程度の野球場であるため、世界大会を行うには心ともない部分がある。
 だがサッカーワールドカップも欧州と南米以外で開催されたのは15回目となる1994年のアメリカ大会が最初だった。ゆくゆくは欧州等でも開催出来るのが理想だが、現実的な部分で言うとオーストラリアは比較的似たフィールド形状のクリケットが人気の国であり、今回のWBCでもプール戦を突破した実力もある。今後世界大会を標榜するなら、アメリカや日本以外での開催も視野に入れるべきだろう。

  開催時期

 これはMLBなど各球団が選手派遣することを渋る大きな原因になっていると感じるが、開催時期がシーズン開幕直前の3月なことは大きな問題点と言っていいだろう。
 シーズン開幕前のキャンプ期間にチームを離脱し、特にNPBでは使用球が異なる為に大会前・大会後で2段階での調整が必要になってしまう。
 またシーズン開幕直前ということは、仮に全治1ヶ月程の怪我を負った場合でも半年程度しかないシーズンでの1ヶ月離脱は大きい。
 怪我を負った時のリスクを考えると、主要国のシーズン閉幕直後の11月開催の方が良いと改めて感じる。疲労が蓄積した状態ではあるが、全治2ヶ月程度までの怪我ならキャンプインには間に合う。もちろん大怪我のリスクや投手の投球数等で難色を示す球団はあるだろうが、少なくとも現状よりは許可が降りることが増えるのではないだろうか。

  球数制限

 これは投手を守るために非常に有用な制度であると思っているが、球数や登板間隔の制限によって、弱小国が強豪国に対して金星を掴みづらかったのは事実である。実際に日本代表も1巡目は捉えられなかった韓国のキム・グァンヒョン、チェコのオンドジェイ・サトリア、準決勝で大苦戦したメキシコのパトリック・サンドバルなど、もし球数制限がなく続投していたらもっと苦戦しただろうという投手はいた。
 高校野球でも投手の酷使は懸念事項として問題になっており、球数管理は個人的にも賛成ではあるが、まだ記憶に新しい2018年夏の全国高校野球大会での金足農業大旋風を支えた吉田輝星(現・日本ハム)のような、1人の突出した投手が投げ抜くことにより勝ち進めれられる場合もあり、大会としては難しい部分である。

野球そのものの課題点

 用具の多さと費用

 野球が世界的な普及に及んでいない主たる原因の1つと言えるのが、用具の多さと費用の高さがある。
 例えば世界的な人気があるサッカーやバスケは最悪ボール1つさえあればプレー出来る手軽さがある(バスケはゴール用の籠は必要になるが)その一方、野球の場合は人数分のグラブとバットが最低1本は必要になる他、しっかりと公式戦を行うならヘルメットや捕手用のプロテクターも必要になる。特にグラブが結構な高額で、少年野球のグラブだとしても1万円以上が殆どであり、硬式グラブに関しては基本的に3万〜が相場となるなど結構お金のかかるスポーツである。
 日本ではアフリカの国々に野球振興活動も行っているが、実際アフリカの野球強豪国は南アフリカ・ナイジェリア・ガーナというアフリカ内における経済大国であり、なかなか始めるのに敷居が高いのは事実である。

 ルールの複雑さ

 昭和の子供達は“巨人・大鵬・卵焼き“という言葉があったぐらい野球は国民的スポーツであり、クラブ活動や部活でプレー経験のある人が多かった。今はスポーツも多彩になり野球のルールを知らないという人は多くなっているのが現状でもある。
 一方で高校野球でも1大会に1プレーは物議を醸すプレーが発生する他、プロ野球ですらルールを正しく把握出来ていないままプレーをすることもあるぐらい複雑なルールも存在する。もちろん基本は打ったら反時計回りに走るというのは難しくないが、振り逃げやインフィールドフライの発動条件などは初見では理解しづらく、アウトの優先権やランナーの専有権等は経験者の私でも自信がないのが現状。とにかく例外が多く、全てを理解するのが難しいという意味ではもう少し簡素化されないと取っ付きづらい部分がある。

 試合時間の不安定さ

 今回のWBCでも韓国戦で試合終了した時間が23時を超えるなど、野球はイニング制のため特に試合時間が安定していない。かつて上原浩治さん先発の試合で2時間を切る試合があった一方、6時間を超え日付を跨ぐ試合も記録されたことがある。試合時間が一定していないということは、試合後の予定を立てづらい部分がある。また今回のWBCは19時試合開始ということもあり、東京ドームから比較的近い東京近郊の人でも終電を気にする場面が目立った。
 時間制ではないことに関連するのが、野球中継における放送時間の延長も課題である。かつては毎日ナイターがTV中継されていたが今は日本シリーズや国際試合のみにはなった。だが中継延長になると後続で放送予定のドラマが遅延し、Twitterのトレンドにもなるぐらいである。
 近年は時間のコスパを重視する若者が多くなり、野球というスポーツは下手すると映画2本分の時間になることもある。MLBで導入予定のピッチクロック等、試合時間の時短化は求められる部分である。

 アメリカの本気度

 これはWBCの課題でもあり、野球全体の課題でもあるが、アメリカの野球普及活動の本気度である。WBCに関しては不参加選手の項目でも述べたが、投手を中心に“怪我をされては困る“というのが考え方として強い。これにはWBCの開催時期がシーズン前であり、全治1ヶ月程度の怪我でもシーズンに響いてしまう部分も大きい。WBCを誰もが出たいという大会にするには、シーズン終了後の11月開催等も検討する必要があるだろう。
 またMLBにおいてもシーズンの最後に行われる両リーグの優勝チームが戦うチャンピオンシリーズをワールドシリーズと呼称する。アメリカ=世界という考え方があるのかもしれない。また、サッカーのクラブワールドカップのような、国別ではない球団による世界大会がないのも閉鎖的と感じる部分かもしれない。
 無論、アメリカ本国では野球を凌ぐ人気とも言われるアメリカンフットボール(以下アメフト)の世界大会で、実は日本はWBCと同様に初回から2連覇している。ただ実は2回目まではアメリカが不参加であり、元々アメリカンスポーツはアメリカ国内で市場を完結させる傾向があるのは見えてくる部分であり、野球にしろアメフトにしろ国外へのアピールに関心がないのかも知れない。例外として世界に普及しているアメリカンスポーツはバスケットボールなのだが、それは前述の敷居の低さも影響しているのかもしれない。


 改善案

 上記で述べた課題、特に野球そのものの課題に対して私が考える改善案をいくつか提示してみる。

 欧州への野球振興活動

 上述の通り、アメリカが世界への野球普及に本腰でないのならば、日本がそれを行うしかない。そして同じく上述の通りに野球は用具の費用も高く取っ付きづらい。
 以上の点を踏まえて、開発途上国のアフリカで普及活動を行うよりは比較的富裕層の多い欧州での普及活動を先行した方が良いのではと思う。今回WBCで対戦したチェコでは着々と野球の知名度は上昇中だそうだ。少しずつではあるがWBC予選参加国も増えており、そういう意味でもまずは欧州をターゲットにするべきではないかと思う。
 最も手っ取り早いのは欧州遠征に赴き、親善試合と野球教室をセットにした交流活動だろう。日本が主催となり現地でミニ大会を開いても面白いだろう。
 また可能であれば、サッカーのアンドレス・イニエスタような欧州で多大な影響力を持つ日本に所縁のある著名人にアンバサダー的を役割を依頼するのもアリだろう。まずは知名度向上も大きな課題の1つ。

 簡易的な野球の導入

 アニメ『ドラえもん』でのび太くんが数合わせで草野球に誘われる描写があるが、ちゃんと野球をやろうとすると両チーム合わせて最低18人は必要である上、競技の特性的に守備者が居ないと成立しづらい為、人数を減らすのも現実的ではないのがネックな部分。
 ならばサッカーにおけるフットサル、バスケの3x3のようにフィールドと人数を簡素化した野球を導入するのも面白いのではと思う。例えばフィールドを内野のアンツーカーのサイズに守備者は内野手のみの6人制野球というのを導入しても良いのではないかと思う。
 またルールや概要の普及という意味では、小学校でよく行われるキックベースを競技として導入するのも面白い試みではないかと思う。キックベースの利点は野球のルールや基本的な動きを押さえつつ、バットもグラブも必要なくサッカーボール1つでもプレー可能な点である。導入や敷居の低さとしてはいきなり野球よりも利点が大きいかもしれない。

 恒常的な延長タイブレークの導入

 上述の試合時間の不安定さは課題なのだが、ならば本来はいっそのこと時間制にするのが望ましい。ただ野球には個人記録争いも重要視されており、特にホームラン数などの数量を競う部門は打席数などで機会の不平等となる。
 現在MLBではワンポイント禁止やピッチクロックの導入など試合時間の短縮化に向けて試行錯誤しているが、いずれにせよ9イニング制だと3時間半前後は見ておかなければならない。
 ならばせめてもので延長戦をWBCや高校野球で行われているタイブレークを恒常的に導入し、少しでも試合が長引くのを避けることは出来そうではある。
 一方でこれは導入されることはないだろうが、NPBで2020〜2021年に導入されていたように、いっそのこと9回終了時に同点であれば延長戦なしの引き分けでも良いのではと個人的には思う。
 ただイニング制である以上、大幅な試合時間の短縮は望めず、あるいはこれ以上短縮しようとすると野球のルールや戦術の根幹を変更させてしまう可能性が出てくる。ここら辺は浸透させて納得してもらうしかない。


 まとめ

 侍JAPANが3大会ぶりに王座奪還し、大谷翔平というスーパースターの存在もあって野球の魅力を再認識させる大会になったと思う。一方でWBC参加国は予選含めて30ヶ国程度しかなく、早々に不参加を表明する選手も多い。大会の価値や権威の面ではまだまだ発展途上の大会であると言わざるを得ない。
 ただチェコでは初めて野球の試合がTV中継されるなど、確実に野球が注目されつつもある。そんな中ではあるが、野球は手軽・手短・簡潔とは対極のスポーツであり、やはり敷居の高いスポーツなのは間違いない。認知してもらう・実際にプレーして魅力を知ってもらうのが何より重要ではある。
 一方でベースボール発祥の国であるアメリカはMLB至上主義を感じ、世界普及への意気込みはあまり感じられない。ならば日本が野球の世界普及の旗手になるしかない。
 効率と短縮化を求める現代の中、それでも侍JAPANの戦いぶりは多くの野球の魅力を再発見させることに繋がった。但し現代に合わせたアップデートは必要だと思うし、世界における野球人口の増加がサスティナブル化となる。
 我々一般の野球ファンが出来ること、まずはいよいよ3月30日に開幕が迫ったプロ野球を注目することだろう。WBCだけが野球ではないし、野球は週6で開催されることが魅力でもある。日常こそ魅力が詰まっている。

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