勧誘のひと

すごくどうでもいい上に長くなりそうなのでこちらに書いておこう。

引っ越してから数ヶ月過ぎた。
すっかり春である。
新年度目前。
ぶっちゃけめちゃくちゃ忙しい。
結構不規則な生活を送っている現状。

冬頃に腰をやり、最近は右膝の関節が悲鳴をあげるという悲惨なオンボロの身体を引き摺り回しながらその日その日でなんとかやっている。

そんなある日の出来事。
仮眠というほどの時間もないが、30分ほど横になって身体を休めようと、脱衣状態でくつろごうと横になって数分。
チャイムの音である。
新居、部屋は以前より広いのだが、玄関までのアクセスはあまりよろしくない。
すろたんはバイト中で不在。
すろうの新学期の教材でも届いたのか、はたまたご近所さんがご来訪なのかは分からないが、用もなければこんな辺鄙なところまで来る人も滅多に居らんやろと、慌てて服を着て玄関を開けると、そこには宗教勧誘よおばちゃん。
なんと大胆なことに、真向かいのお部屋と僕の住む部屋のダブルピンポン術らしく、真向かいの住民さんと勧誘のおばちゃんと僕とで3者面談みたいな構図になった。
3人で目が合って「?」となったんだが

気さくなおばちゃん「仏教とか入らない?ご先祖とかに感謝したり、親孝行とかそういうやつなんだけどサ」

全く心当たりのない顔の元気なおばちゃんの一言で納得した僕と真向かいの住民さんは「なるほどね〜wいや、いいようちは〜ww」「頑張ってね〜」って感じで笑って、15秒で完結してなんか和やかな雰囲気で3人とも解散。
自立歴もそれなりに長く、以前は一人暮らしも結構してたけど、史上最速で終了した、実に雰囲気の良い会話(?)であった。
おばちゃんのほうも押し付ける感じも必死な感じも、何かを盲信している感じも全くなく、さっぱりしていて、雰囲気からしてもとても良い人柄だった。

そして埃がつかないように再び服を脱ぎ(最近あったかいし)、軽く部屋の掃除などをして、バイト中のすろたんから連絡などないかチェックしていた時だった。

またもやチャイムの音。
まぁね、この時期色々変わるもんね。新学期とか新生活とか。
置き配すると玄関のドアと思い切り干渉するから、配達してくれる人は大体クソ重い荷物を持った状態で玄関先で待っていてくれるのだ。
待たせるのも申し訳ない。

慌てて服を着てドタバタと閉めたばかりの襖を開けて玄関へ。
そこに居たのは脇にビニール袋に入った新聞的な何かを持った程々な年齢のおじさん。
宅配会社でもなく、宗教的なあれでもなく、いきなり「こんにちは!」である。
どうやら新聞の勧誘でもなさそうだ。
とりあえずこんにちはと返すしかない。
素性を明かす気配もなく、具体的に何かを言い出すわけでもないそのおじさんの話をとりあえず聞くしかない状態。
そして「わたくし○○と申します、よろしくお願いします」と胸元の名札を見せられる。
「は、はぁ、」
とりあえずの相打ちである。
部屋に花粉が入ると僕はまた掃除機と奮闘しなければならないし、そもそも風が強いエリアなのだ。
基本的にドアは15センチ程度しか開けないのだが、今時部屋の間取りを見せるなど、空き巣や強盗に入ってくれというようなもの。
というか他人の家ジロジロ見るのはそもそもデリカシーに欠けると思うのだが、そのおじさん、扉の間からそれとなく生活感を伺ってきている。
そして無難な喋り口調で無難なことを言いながら僕の様子を探っている。

年齢、性別、性格、生活習慣を把握しようとしている。
…今の僕の形相や服装からすると全て全く分からないだろうが。
そして「最近どんな生活ですか?」→「色々ですね」「大体とんなことされてますか?」→「色々ですね。」
そして5分が経過した頃。やっと言った。
その男は某『生活に必要なものをカタログ注文すると配達してくれる系サービスの勧誘の人』だったのだ。

…個人的にこの手の話し方は好きじゃない。
相手の素性を探るだけ探り、話を長引かせて切り上げるタイミングと理由を無くしつつ、相手の情報を得られるだけ得て、話を自分にとって有利に進めていくタイプ。
そして何より目が笑っていない。
7分経過。
この時点で表面上の会話はトントン拍子で進んでいるが、引く気が全くないことは分かっていた。
僕も相手も。
そしてお互いに「めんどくせぇ奴だな、早く折れろよ」と内心思っていることも、進展のなさに焦ったくて苛々し始めていることも。

ああ言えばこう言う、イタチごっこの押し問答だ。
そして初対面だから当然なのだが「忙しい中大変でしょう」「スーパーなどに向かうのも時間がかかってしまうと思いますが」「お料理されるんですね、時間かかりますよね」「大変ですよね」と、とにかくしつこいのだ。
ここまで食い下がってくる奴、初めてかもしれん。
そして僕は表面上の笑顔と社交辞令が大嫌いなのだ。
相手の動向や言動を探るような目線も、気付かぬ人は気付かんかもしれないが、僕はそういった事柄において過敏だ。

「日夜不規則でいつ居るか分からん」「独断で契約できないんで」「相方も僕も不在のことが多い」「予定は新年度も相まって全く不明」「曜日による規則性はない」「引っ越してから色々あるんで」「家族に相談しないで即決できません」(要するに帰れ)

性格上相性が悪すぎる。
厄介払いしたいのを相手は確実に分かっている。
僕はこの営業マンの話には乗りたくない。
同調、共感、鸚鵡返し系、誘導系の話術の使い手の話には絶対に乗りたくない。
途中からは便利配達サービスよりも相手の勧誘おじさんのプライドか高くて引き際を失った「引いたほうが負け」というだけの不毛なやり取りが続いた。
毛がないのは頭皮だけで勘弁してほしい。
いや、頭皮も勘弁してほしい。

20分が経過。
「奥さんとご相談になってください、また○○曜日来ますので。ご不在でしたら○○曜日にも○○曜日にも伺いますね^ ^」
極め付けの名刺を渡され、ずっと脇に持っていた袋に入った紙束を渡された。(何者か分かった時に察したが、雨の日のビニールに包まれた新聞っぼく見えたのは案の定カタログだった。来訪早々渡さないのは「高いから」とか「スーパーで買ったほうがいい」と断られることが多いからだろう)

散々である。
15センチ程度とはいえずっと開けっぱなしにしていた玄関から舞い込みまくった花粉。目が痒すぎる。
「土日のうちに奥さんと相談してください」
を、棘もなく非もない極上の言い回しで押し付けて、極め付けの名刺を渡してきやがった。

互いに笑顔の表情だが、目線でバチバチに格闘している状態。

こちらがしつこいと言えば「以前も来ましたっけ」とか「申し訳ないです」と、こちらが悪いみたいになるような誘導
めんどくさいと言えば「これが私の仕事なので」と笑顔で言い返してくるタイプ。

押し切ることに長けているのは分かるし、それで何件も契約取ってきたのも分かる。
便利な人にとってはとてもありがたいサービスであり、助かるものだとも思う。
しかし。

僕はこのおじさんの売り込みで契約する気は全くない。
友人の家とかご近所さんとか、このサービス使ってる知人はいるし、確か実家も昔使ってた。

しかし。
しつこいねん。
押し付けと決め付けがすごいねん。
「契約してほしいんですわ」って素直に言われたほうが僕的には好感度高いねん。

名刺渡されてドア閉めて鼻炎薬飲んでしばらく経って思ったよ。

目の痒さと早くドア閉めたいばかりに頭が回らなかったけど。何故言わなかったんだ、僕。

「忙しい中でも作ってくれる嫁の飯が一番美味いんで」
「忙しい中、時間合わせて行く嫁との買い出しが好きなんで」

これに尽きる。

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