1歳の娘がはじめて喋った言葉が「ちがうちがう」だった話
私にはもうすぐ1歳になる娘がいる。
娘はまだはっきりと言葉を発しはしないが、よくうにゃうにゃと何かを喋ろうとする。「宇宙語だね」と先輩ママである姉には言われた。
本当はたぶんいわゆる喃語と呼ばれるものだろうが、こうして娘は宇宙人からどんどん地球人になっていくのだと思うと感慨深い。「ママ」なんて言われた日にはお母さん泣いちゃう。夫はしきりに娘に対して「パパって言ってごらん?ぱーぱ!」とどうしてもパパと呼ばせたい様子だが、帰ってくるのは「んまんま」という宇宙語である。なかなかパパと呼ばない娘は、1歳にしてすでに夫を翻弄し、メロメロにしていた。末恐ろしや。
だが、最近、娘が新しい言葉を覚えた。
それが
「ちがうちがう」
である。
娘が「ちがうちがう」と言ったのをはじめて聞いた時は驚いた。
夜の離乳食を食べおえてもまだ足りなかったのか、泣きわめく娘の前に、まずは喉をうるおすために水の入ったマグを「どうぞ」と差し出すと「ちがうちがう」と言ってはねのけたのだ。
「いま、『ちがうちがう』って言ったよね?」
夫と私は2人して顔を見合わせた。
そこで、娘の前に小さく切ったバナナを置いてみる。泣き止んで手づかみで食べる娘。
むにゃむにゃと何かを言ってはいたが、「ちがうちがう」とは言わなかった。あんだけ食べたのに、まだ食べるんかい。
そのあとも娘の「ちがうちがう」はつづく。
娘は絵本が好きなようで、よく本棚から絵本を引っ張り出しては自分でめくっている。「一緒に読もうか♪」と私が絵本を手に取りひらくとまた「ちがうちがう」と言われた。切ない。
服が汚れたので、友だちのお子からのお下がりのしま模様Tシャツに着替えさせようとしたときも「ちがうちがう」と言って脱ぎ捨てた。そのあとに着せたさくらんぼの描かれたTシャツはすんなりと着てくれた。
こんな言葉、どこで覚えたんだ。最近私が「ちがうちがう そうじゃ そうじゃなぁ~い♪」と鈴木雅之ばりに歌っていたからだろうか。
いや違う。そうじゃない。そうではなく、おそらくは宇宙語のバリエーションが増えたのだろうと分かってはいたが、絶妙なタイミングであまりにもはっきり「ちがうちがう」と言うので、もしかしたら本当に「違うよ」と伝えたいのかもしれないと思った。
幼い娘は小さな体をしているが、スマホの中の写真ファイルを見返すと、生まれたばかりのころは今よりももっと小さかったことに驚く。毎日見ていると細かい変化になかなか気づきにくいが、確実に娘は成長していた。生まれたばかりのころなんて、この子が言葉を話すようになるなんて想像もつかなかった。ただただ、もぞもぞと手足を動かすさまがかわいくて、ずっと見ていたいと思った。
宇宙語を話すようになったいまでも、娘がはっきりと意味のある言葉を流暢に話すようになる姿はなかなか想像できない。
でも今回の「ちがうちがう」で、いつかこの子とお喋りする日が来るんだろうな、と思うと、嬉しいような寂しいような感覚だった。
はじめて喋った言葉が「ちがうちがう」だったので
きっと嫌な事にははっきりとNOと言える人間になるだろう(たぶん)。
人生を生きる上でとても大切なスキルである。たくましく生きていってくれそうで、母は安心だよ。
でも次こそは「ママ」と呼んでくれたら嬉しい母である。