右手
大切な思い出ができた。
家族との会食に向かう移動中、乗換駅の階段を上っていた時。
不意に右手に飛び込んできた温かい何かに、飛び上がりそうなほど驚いた。
振り払いそうになったところで優しく右手が包まれて、慌てて振り返ると長女が僕のすぐ後ろを歩いていた。
右手に飛び込んできた何かは彼女の左手。
驚いてアワアワしている僕をみて、彼女は笑って言った。
「いやー。子供の頃どんな感じだったかなと思って」
笑いながら階段を上りきるまで、ふんわりした温もりを右手に握った。
僕の手の中にすっぽり全部が収まっていた小さかった左手は、僕の手を包むくらいに大きくなっていて。
優しい温かさが右手から広がって、こみ上げる嬉しさと熱を帯びる目頭を抑えて平静を装うのに苦労した。
向こう三年は生きていけそうな気がする。