「タクシーの運ちゃん ~桶狭間に想いをはせて~」感想
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なごや芝居の広場 第7弾
「タクシーの運ちゃん ~桶狭間に想いをはせて~」
は秀逸なお芝居でした。
これを書いた渡辺一正くんは同じカズマサで親近感を持っている名古屋の役者・劇作家です。かなり昔に佐野俊輔くんに紹介されたとき「名古屋をどり」で花道の幕係やってました、と言われて、知っているもののそこまで仲良くなる機会が無く、しかしキッズハートで作風はなんとなく知っていました。
「可惜夜の泪」で共演したときに、アドリブの効く凄い喜劇役者だ、ということが分かり、急に気になる存在に。この作品は縁深い緑区のものだし、リアクトの手嶋政夫さんが主役、というので見に行きました。
役者さんたちも素晴らしかったんですが、このお話がよく出来ていました。
以下ネタバレあり。
数年前妻を亡くした不器用なシングルファーザーと思春期の娘の話。
昔は仲良くてお父さんといろんな歴史スポットを訪ねていたんだけど、娘の年頃と、近年に母を失ってからの喪失感で会話の続かないふたり。
それがタクシーに乗ってなんてことない桶狭間公園で、ちょっとしたことで最後お互いの壁が破れまた心の交流が始まる話。
そんなシンプルな話が面白くなるのは、まずふたりの心を表すために「〇〇な部分」という心の声が具現化されていて、お父さんには3人、娘にはたくさん。これがいちいち叫んでうるさい。「最近どうだ」とお父さんが聞くと「ここでいいところみせるぞー!」とかいうお父さんの気負いが叫び「別に」と娘が言うと「まじうぜーし!」「ファーック!」とか心たちが叫ぶ。どちらも人生の負け組な匂い。
二人が乗るタクシー運転手もまた負け組っぽい。ぼんやり学生になりぼんやり会社員になり、リストラされてタクシー運転手になったときに「お客様ひとりひとりと仲良くなろう」とポジティブおせっかいになった運転手。これを初代おもてなし武将隊の憲俊くん。なんか調子っぱズレに明るく、オヤジ臭が出たのを安い香水でさらに臭くする。それにイライラする心の声はタクシーの車体。
心の声がキャラクターたちにツッコミを入れる中、めっちゃ距離の短いロードムービーみたいな話が始まる。会話は進まず、イライラする会話を昭和ギャグ満載で話は進む。
母を亡くしてからふさぎがちな娘の心を開かせたい父。
ただただそれがうざい娘。
お互いの心には母の思い出がくりかえす。
ガンになった母を心配して泣く娘に、「おかあさんが死ぬわけないじゃないか!」と、自分の不安を振り切って抱きしめた父、でも願いは叶わず母は死んでしまう。
到着した桶狭間公園はがっかりするくらい小さく普通の公園。
「でもここにはロマンがいっぱいあるんですーーー!」と元気よく
信長の桶狭間の合戦を説明するのは、先ほどの運転手。演じる憲俊は、当時の信長にかさなることなく、明るくわかりやすく桶狭間を
だれにでもチャンスはある!というポジティブな説明をする。ここのシーンが好きだった。
そしてその合戦を演じてみせる心の声達。
2万5千人の今川軍を大勢の娘の心達が演じ、2000の織田軍をお父さんの心が演じる。
あきらめちゃだめだー!と小さなお父さん部隊は、果敢にも娘の大群に立ち向かう。
熱を込めて歴史旅を成功させようとする中年達の戦い。その情熱で娘の心は開くのか?
でも出た答えは「もうたくさん!」お父さんに積もらせた不満をぶちまけ、「私は高校卒業したら家を出る」と歩き去ってしまう。
気の小さな負け犬父さんは、どんどん小さくなる娘(と大勢の心達)の背中をみおくる。「お父さん、声かけないと、娘さんいっちゃいますよ!」運転手も慌てる「俺に乗れ!」と現れるのはタクシー。(でも心の声だから聞こえないので)「ああ!なんで僕の車のボンネットに乗るんですか!」
タクシー上に立ったお父さんは勇気を振り絞って、叫ぶ。でも気の利いた言葉は一切でなくて「お父さんはお前の味方だ、お前は大丈夫だああ!」と何度も何度も叫ぶ。
その声を聞く娘の声達もお互いの本音を言い出す。「お母さんが死んだのも、やりたいことがわからないのも、将来不安なのも、お父さんのせいじゃない」「叫べ!ありがとうとかごめんなさいとか言わなくていいんだ、ただ叫べ!」
ついに娘が心を開放するときがくる・・・。
昭和のホームドラマが骨子にあって、
「これは芝居の感情系や〜〜」って思いました。
洒落たコンセプトも泣く、インテリな思想はないけど、
ただただむき出しに感情が出て、実にうっとおしい。
でも目の玉の奥が涙で潤む。親子の話もあるけど、出演する人物がどれも「なにがしたいかわからない」「大きなゴールがあるでもない」「なにが問題で、なにが正解かもわからない」
でも大きな気持ちがある。
みんな大きな気持をかかえている。
それが最後に大開放されて交流する、というファンタジー。
これを作った渡辺一正はかなり面白い、
それを演じたうっとおしい役者たちも素晴らしい!
って思いました。
あとこの原作を出版した「桜山社」というのは私が子どものころからずっとおせわになってるビデオ名古屋さんの息子の江草三四朗くん。
地元のはなし、地元の芝居、地元の役者で地元の劇場。
私の求める芸の地産地消のお手本だったし、
ローカルの極みだからこそグローバルな作品が生まれていました。
ぜひまた再演を希望します。