【第一章完結】8話:転機の前触れ
🍑これまでのお話🍑
[早朝・祖父の作業場にて]
裏庭では、木の香りが漂う作業場では、朝早くから桃李の祖父が、古びた机の上に工具や設計図が並べられている。
桃李の祖父:
「困ったのう……」
拡げた設計図を眺めながら、頭を掻いている。
今日は、7月も終わりに差し掛かった土曜日。
桃李は、老犬・ロンロンの散歩から戻ったところだった。
ロンロンは、レゲエ好きの祖父がつけた名前だ。
桃李
「どうしたの、じいちゃん?」
じいちゃん
「ロンロンの小屋がボロくなってきたから屋根を作り替えてやりたいんじゃが、……」
隣で、ロンロンが嬉しそうに尻尾を振る。
じいちゃん
「よしみの大工が辞めてしまったから、木材が手に入らんくてなぁ…」
桃李
「木がないなら、どうしようもないよね……」
じいちゃん
「また今度にするかのぅ。」
[昼過ぎ・自宅にて]
リビングで桃李の祖母が新聞の折り込みチラシを広げている。
おばあちゃん
「さてと、今日の晩ご飯は何にしようかねぇ……」
チラシに目を通しながら呟く。
桃李
「おばあちゃん、どうしたの?またお買い物?」
ソファに腰掛けて、おばあちゃんを見上げる。
おばあちゃん(深いため息をつきながら)
「そうなんだけどねぇ、最近どこで買い物すればいいのやら……」
おばあちゃん
「お肉屋さんは先月閉まっちゃったでしょ?八百屋さんも最近はさっぱりでねぇ……」
桃李
「じゃあ、商店街の大きなスーパーとかは?」
おばあちゃん(深いため息をつきながら…)
「最近は、野菜やお肉が全く売れないって言って新鮮なものがずいぶん減ってしまってね……。油っぽい惣菜ばかりで……。」
おばあちゃん
「仕方なく直売所まで買いに行ったりする始末でね、こうも暑いと滅入っちゃうわねぇー。」
桃李
「バスで30分だっけ?それじゃ遠すぎるよ」
母(微笑みながら会話に入ってくる)
「お母さん、今日は私たちが買い物に行ってくるわ」
おばあちゃん(驚いた様子で)
「でも、あんたも体調がよくないんじゃないの?」
母
「少し歩くくらいなら平気よ。それに、たまには桃李と一緒に買い物したいもの」
(おばあちゃんに笑いかけ、桃李の肩を軽く叩く)
桃李
「え、俺も?」
少し面倒くさそうにしながらも、立ち上がる。
母
「もちろんよ。ほら、たまにはいいでしょ??」
桃李は自作の二輪スケボーを片手に母と買い物にいくのであった。
[サビれた商店街]
母
「ずいぶんと寂しくなったわね、この商店街も……」
母は、周囲を見回しながら呟いた。
桃李
「人もほとんど居ないね。緊急事態宣言の時みたいに閑散としてるね。」
シャッターに貼られた「閉店」の張り紙にここが痛む2人。
母(ため息をつきながら)
「便利なサービスが増えるのはいいことだけど、そのせいで大切な場所がなくなっていくのは、なんだか寂しいわね」
桃李
「大切な場所か……。そうだよね。」
桃李の脳裏には、自分の幼い頃の記憶が蘇る。
賑わっていた商店街の姿、笑顔で声をかけてくれる店主たちの顔。
母(明るい声で)
「さ、肉屋さんは……ほら、あそこの角よ」
桃李の肩を軽く叩き、指差す。
桃李(ほっとした声で)
「あ、うん!やってるみたいでよかったね!」
母(明るい声で)
「今日は、メンチカツ終わったのかしら?私はね、あそこのメンチが大好きで実は楽しみにしてたのよ?ふふふ。笑」
商店街のアーケードから、肉屋に曲がる道に差し掛かった瞬間、母がふらついて足を止める。
母「……あれ……?」
額に手を当て、その場に崩れ落ちる母
桃李「母さん!?」
慌てて駆け寄り、倒れた母を支える
通りがかりの人が心配そうに立ち止まる。
通行人「救急車呼びますね!」
桃李「お、お願いします……!」
母の手を握りながら必死に呼びかける
桃李「お、おかぁさん!!母さん、返事して‼︎」
桃李の声に返事はなく虚しく、商店街に響いた。
ー数分後。
救急車のサイレンの音:
「ピーポー、ピーポー…」
無意識に冷静を保ち、平然を装う桃李。
救急隊員の質問に答えるだけでいっぱいだった。
[救急車内]
母はストレッチャーに横たわり、桃李がその隣で不安げに見守っている。
救急隊員の男性「動きますよー。」
サイレンの音が響き渡る車内。
カーテンの隙間から、垣間見える街の様子。
街の人達が心配そうに見ている。
とっさに桃李は、肉屋を見た。
そこには、母が大好きと言っていたメンチカツが少しだけ残っていた。
桃李が無意識に数えた「4個」という数は家族を象徴しているかのようだった。
女性の救急隊員
「呼吸は安定しています。念のため病院で診察を受けましょう。」
「久我山の総合病院でいいですか?」
桃李「お願いします……母さん、大丈夫だからね」
母の手をぎゅっと握りしめる。
「……。」
サイレンと車内の振動は重なる事なく、流れに委ねる事しか出来なかった。
[久我山の病院]
診察室の扉が静かに開き、白衣の医師が出てくる。
医師
「軽い脱水と疲労が原因のようですね。念のため数日間入院して経過を見させていただきます。」
桃李
「……わかりました。ありがとうございます。」
母の病態が脱水症だと知り、少しほっとしたような表情を見せる桃李。
だが、今日一日の出来事は桃李の心に重く深くのしかかっていた。
会計の女性:
「お大事にどうぞ。」
会計を済ませた桃李は病院のロビーを出た。
久我山の街はすっかり夕陽に染まり、やがて訪れる夜の気配をまとっている。
桃李
「もうこんな時間か……。」
朝から続いた怒涛の出来事――
祖父母の困った様子や、母の倒れた瞬間、そして寂れた商店街の現実――
桃李の頭は次々と思い出される場面でいっぱいだった。
電車になんて乗る気にすらなれず、桃李はトボトボと自宅に向かい歩き始める。
どこか足取りが重く、風が吹くたびに疲労が体に染み渡るようだった。
[久我山からの帰り道]
桃李
(母さん、大丈夫だよな……数日入院で済むって言ってたし。)
桃李
(……そういや、俺も喉乾いちゃったな…。)
お!自販機みっけ!ポカリスエットもいいけど、、今日は元気が欲しいから、、オロナミンCにしーよおっと!
コイン投入口の前に立ち止まり、桃李はポケットからスマホを取り出す。
ホーム画面:
「不在着信(15件)……」
「留守番電話(3件)…」
ホーム画面には、祖母からの不在着信と留守番電話の通知がいくつも表示されていた。
桃李
「げ!しまった。ばあちゃん怒ってるだろなぁぁ……。」
彼は急いで祖母に電話をかける。
桃李
「もしもし、おばあちゃん?ごめん‼︎」
祖母の心配そうな声が聞こえてくる。
祖母(電話越しに)
「桃李、大丈夫かい?」
桃李
「母さんの具合が悪くなって今病院に連れて行って、出たところ。」
祖母(電話越しに)
「そうだったのね。そんな事じゃないかと心配してたよ。で、お母さんの具合はどうだい?」
桃李
「うん、大丈夫。軽い脱水と疲れが原因だって。数日は、入院するけど、命に関わるようなことはないって。」
祖母
「そうかい、それなら安心だね。気をつけて帰っておいでよ。」
桃李
「わかった。今から帰るから心配しないでね!」
祖母との通話を終えると、桃李は深いため息をつきながら、オロナミンCを一気に飲み干しスケートボードに飛び乗った。
桃李
「よし、急いで帰ろう。」
スケートボードに乗り、帰り道を疾走する桃李。祖母の声を聞き、少しだけ気持ちが軽くなる。
しかし、その瞬間――
桃李
「(ギィィーッ)……なんだ?」
空を見上げると、一筋の桃色の光が夜空を駆け抜ける。
桃李
「あれは……流れ星?」
それは普通の流れ星ではなかった。
夜の闇に突如として現れたその桃色の光は、まるで街全体を優しく包み込むように輝いていた。
桃李はボードを止め、その光を目で追う。
桃李
「前見たやつだ!!」
「……動物園の方に向かってる?……行ってみるか。」
スケートボードを再び蹴り出し、その光を追いかける桃李。彼の心には不安と好奇心、そして少しだけ、新しい希望が芽生えていた。
次回予告:桃色の光が導くものとは?
編集後記:
「吉祥寺リバイブ!」をご覧いただき、いつもありがとうございます!そろそろ師走ですね。
皆さんも、お忙しくなる頃ではないでしょうか?お身体壊さないようにご自愛くださいね😃
さて、「吉祥寺リバイブ!」は第二章に突入します。
吉祥寺に昔のような活気は訪れるのか!?
新キャラ続々登場の第二章は、、、
2025年初旬に公開予定です!
お楽しみに(^^)
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